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「どういう意味?」
「言葉の通りだ。俺への説教なら後からどんだけでも受けてやる。でも関係ないスタッフまで巻き込むな。おまえは何しにきた? 用事済んだら帰れ」
健一の怒りの炎が一層燃え上がったのは見てわかったが、空也に言い返すことなく、黙ってスタジオを出ていた。シンと静まり返ったスタジオ内の空気は引き続き重い。
「悪かったな。気を取り直していこう。俺が最高のパフォーマンスを出せばいいだけだ」
亮介がパンと手を叩くと、スタッフにも気合が入ったのか顔つきが変わった。こういう世界から遠のいていたとはいえ、亮介も空也と同じで周囲を鼓舞する方法は熟知している。だから背中を預けられるという意味では信頼できる相手ではあるけれど。
「あいつはあいつで大変なんだろ」
亮介が空也にしか聞こえないくらいの声の小ささで囁いた。
さっき話していた健一のことも含め、言葉は少なくともその気遣いは伝わってくる。
もちろん今やるべきことはわかっている。忙しいこともわかってる。何より健一が、グループのために一生懸命やってくれているのもわかっている。
でも健一のファンから健一の話を聞けたことが嬉しかったんだ。おまえのこと大好きなんだって。おまえの良さを知ってる人間がいただけで俺と同じなんだなって嬉しかったんだ。
――なぁ、もうバカ話さえも付き合ってくれないのか?
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