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「どした?」
「あの、私、そういうつもりで来てます」
「そういうつもりって、何?」
「スカイさんに抱かれてもいいです」
「は? アホか、なんでだよ」
予想しない答えに半笑いしつつ、改めてDVDに手を伸ばすと、マナは力いっぱい空也を押し倒してきた。油断していたこともあり、マナに覆いかぶさられ、勢いでソファの角が後頭部に当たって鈍い音がした。
「痛ってぇな……なんだよ、何がしたいんだよ、おまえ」
「抱いて、ください……」
「は? なんで俺がおまえを抱くんだよ」
「私、結構、おっぱいも大きいし、経験もありますから大丈夫です」
「おい、やめろって」
空也は胸元のブラウスのボタンを外し、胸元が見えるように開こうとしたマナの両手を掴んだ。
「お願いなので抱いてください! 減るもんじゃないですよね、そうじゃないと私……」
「おまえを抱かなきゃどうなるんだよ」
「それは」
ふと空也の脳裏に、とある単語は浮かんだ――ハニートラップ。
「誰だ」
「……」
「おまえにこんなことさせたのは誰だって聞いてんだ」
「言えません……」
マナの目にみるみる涙が浮かぶ。間違いない。マナは誰かの指示で動いている。
「どこからだ。俺たちと会ったレコーディングの日からか?」
「……」
ふるふると唇を震わせるマナの様子を見て、確信に変わった。Hopesのスカイに気に入られた落ち目のアイドルに大人が目をつけた。そして空也の脳裏には憎たらしい男の顔が浮かんだ。
「川嶋か」
マナの肩がビクッと震え、予想通りの結果に空也はため息をついた。事務所はマナにハニートラップを仕掛ける役目を与えたのだろう。
「私、ここで結果を出さないといけなくて」
「なんだよ、結果って。俺のスキャンダルでおまえになんのメリットがある?」
「Hopesのスカイの女になれたら社長がソロデビューさせてくれるって」
「アホか。そんな鳴り物入りでデビューしたって続くわけないだろ」
「お願いです。私を助けてください……」
「だったら他の方法で助けてやる。こんなバカなことやめろ」
「いい加減なこと言わないでください! 川嶋さんを怒らせたら、蒼くんみたいになっちゃうんですよ」
蒼くん――それは、亮介の恋人であり、元トリコロールのボーカル水原蒼のことだ。成人を過ぎた会社員なのに高校生と偽ってデビューして、それが世間にバレてグループ脱退を余儀なくされた。しかし年齢詐称は、蒼が勤めていた会社とトリコロールの所属事務所の社長である川嶋が企てた計画だったとわかったのは、トリコロールのラストライブの後だ。
「とにかく服を着ろ。俺はおまえを抱くつもりはない」
「……」
マナはまだ納得していないようだった。空也に跨ったまま、自ら乱した服を直そうとしない。当然、空也はマナが自分を恋愛対象として考えていないのはわかる。あくまで売名のためだ。けどこんなやり方は間違っている。それをどうやって伝えればわかってもらえるのか。
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