第8章:甘い罠の代償

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――そうだ、健一なら。  この状況をなんとかしてくれる。きっと自分よりも冷静に判断して、適切な対応を考えられるはずだ。 「ただいま、誰か来て……」  健一はファイルケースとスーパーの袋を抱えたままリビングに現れたが、その表情は一瞬で凍りついていた。 「健一、ちょうどよかった。おい、マナ早く服着ろよ。あのな」 「何してんの」 「何って、おまえを待ってたんだろうが」 「僕はそんな趣味ないよ」 「は? 何言って」    空也の目の前を、マナが服を直しながら自分の鞄をひっつかんで通り過ぎ、そのまま走って部屋を出ていった。 「おい、マナ、どこ行くんだ!」 「あの子、クレセントムーンの子だよね」 「ああ、おまえに以前話したことあったろ、おまえのファンで」 「最低」 「は?」  凍りついていた表情はいつしか、静かな怒りの表情に変わっていた。唇を噛み締め、今にも泣き出しそうな、それでいて苦しそうで辛そうだった。 「わざわざお気に入りの子を家に連れ込んで? しかも僕が帰ってくるってわかってる日に?」 「おい、おまえ、なにか勘違いしてないか。俺はマナとおまえを」 「女がいいなら最初からそういえばいいだろ!」  その叫びに、ようやく健一に誤解されていることに気づく。  「バカ、あいつはそんなんじゃない」 「あの子、事務所にも来てたよね。ああ、わかった。それでさっきカメラ持った記者がうろついてたのか」 「カメラ……まさか」  体の関係はない。しかし、今、服装が乱れたまま出ていったマナが、張り付いていたカメラマンに撮られたらどうなるか、わからない空也ではない。二人の間にか関係があったどうかなんて、真実はどうでもいい。ぬかりのない川嶋の本当の目的は、Hopesのボーカルであるスカイのスキャンダルだったのだ。
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