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その日の夜、事務所にHopes全員が集合することになった。健一は先に事務所にいて各所への電話対応に追われている。会議室には空也、大和、彰、そして亮介と付き人の蒼がいた。机には、出版社から届いた来週発売予定の雑誌の原稿FAXが広げられていて、それをメンバーの大和が熱心に読んでいた。
「そんなに面白いか、大和」
「彰、この関係者って誰?」
「ん? なになに、すでに事務所の公認の恋人候補と聞いていますってか? これはそれっぽく書いてあるだけで、実際に関係者はいないんだよ」
「蒼、言ってない?」
「お、俺ですか!」
「大和、こいつがそんなこと言うわけないだろ」
恋人の濡れ衣を慌てて亮介が否定する。
「いやー、それにしてもすごいね。マナちゃん来たのって今日のことだよね? スカイの自宅に呼ばれたことも書いてあるし、記事は事前に用意してあって、あとは写真をはめこむだけだったんだね」
「発売日に合わせて仕掛けたってことだろう」
「まぁ、これスカイ以外ならハニートラップってわかるけど」
「うるせえよ」
事の重大さはわかってはいるものの、彰と亮介はどこか飄々としている。二人はマナに会ったこともあって、そういう関係じゃないことはわかっているからだろう。しかし、事情を知らない大和だけは、納得できていないようだった。
「スカイはどうして女の子を家に呼んだ?」
「どうしてって、そもそもあいつを女扱いしてねぇし」
「でもスカイは恋人いる。部屋に二人きり、よくない」
「……大和のくせに正論言いやがって」
いつも無邪気な大和だが、素直で純粋だからこそ、こうして時々、躊躇しない発言をする。とはいえ、大和の言うとおりで、最初から体目的じゃなかったせいで、うっかりしていた。しかも、健一は部屋に入ってすぐ最初に「女がいいなら」という言葉を口にしている。ブラウスの前は開いて下着が見えているアイドルに跨がられている風景を見れば、誤解されても仕方ない。
「クレセントムーンの事務所に電話したんですが担当者不在と言われてしまいました」
「連絡してくれたのか、ありがとな」
亮介が蒼をねぎらう。蒼はすっかり事務所の仕事が板についている。しかもなんとかできないかと動いてくれているようだ。
「俺、一応、マナさんと同じ事務所にいたので、個人的に連絡とれるか聞いてみましょうか」
「いや、今はいい。健一の指示に従ってくれ」
「蒼くん、アイドルだったときに仕事一緒だったことあるの?」
彰が興味ありそうな表情で身を乗り出す。
「あります。クレセントムーンのほうがデビューが先だったのでライブに呼んでいただいたりしました。特にマナさんは弟さんがいるそうで、とても優しくしてくれました」
「そっかー」
そういえばマナは蒼のことを心配していた。かつての先輩後輩だったし、事務所トラブルという意味では共通するのかもしれない。ふいに会議室の扉が開いて、健一が入ってきた。空也と一瞬目が合ったがすぐに逸らされた。
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