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「軽率だった。嫌な気持ちにさせて悪かった」
「ううん、僕もおとなげなかったと思ってるし」
「もともとこういう人だしな、俺は」
「ごめん、言い過ぎたって」
弱弱しい言葉を吐いたばかりの健一の口を空也は優しく塞いだ。柔らかい唇を味わったのはどれくらいぶりだろう。軽く触れ、そしてすぐに唇を合わせる。今度はさっきよりも少しだけ深く合わせるとお互いの唇はぴったりと重なった。舌を差し入れたタイミングで唇の隙間に忍び込むとお互いの舌がくち、と音を立てて絡む。
健一の髪を優しく梳きながら、キスを深くする。温かい舌の感触が気持ちよくて、夢中で絡ませたり吸ったりするたびに、くちくちと唾液が鳴る。
空也の手が健一の腰にまわってシャツの裾をたくしあげ、素肌に触れる。柔らかくて、もちもちとした感触が手のひらに伝わり、このまま全部を撫でまわしたい。
「このまま抱く」
「そ、れはちょっと」
「なんで」
「ここ事務所だよ、それに、会議室だし」
「だからなに」
「……だめだよ」
「ここでやめたら、また逃げるだろ」
「もう逃げないって」
健一の、もう、という言葉に引っかかり。空也は手を止めた。
「やっぱり逃げてたのかよ」
「うっ…」
正直、もう後戻りできないくらい下半身は限界なのだが、はっきりさせておきたい。なぜ健一がこんなに自分と距離を置いていたのか、ということを。
「おまえ俺のことずっと好きだったんだろ。恋人になったっていうのに逃げる必要あるか?」
「それはごめん、本当に僕の問題で」
「理由も言われずに避けられるこっちの身になってくれよ」
「そうだよね、ごめん。忙しいのを理由にしてたのも、認める」
そこまでわかってるのなら話が早い。
「で、なんで避けてた?」
「笑わない?」
「まぁ、面白ければ笑う」
「うっ」
「よほどのことじゃなきゃ怒らないから言えって」
空也が頭を優しく撫でると、健一は観念したように息を吐いた。
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