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「僕はスカイのこと全部知ってるつもりでいたけど、そうじゃなかったんだなって」
「どういうことだ」
「その、なんていうか、僕と二人のときのスカイってきっと恋人だけにしか見せてこなかったスカイで妙に甘ったるいっていうか」
「そりゃ今までとは違って当たり前だろーが」
「そうなんだけど、その、甘くて優しい二人の雰囲気に慣れてしまったら、僕たち戻れなくなっちゃうような気がして」
「要するにまだメンバーとしての俺と恋人としての俺を切り替えられる自信がねぇってことか」
「うん……」
「別におまえがしてほしいならあいつらの前でイチャイチャしてやるぞ」
「や、やだよ! 絶対にやだ」
もう想像したのか、健一の顔がみるみる赤くなっていく。ったく、そんなにかわいい顔されたらせっかく収まったのにまた下半身が疼くだろーが。
「そういうことなら早く言えよな」
「ごめん」
「つーか、切り替えられないならそれでもいいんじゃねーか」
「え、どういうこと?」
「俺たち、あいつらと何年一緒にいるんだよ。しかもおまえの気持ちは俺よりあいつらのほうが知ってるんだし、気を遣うことないだろ」
「そういうもんかな」
「からかわれるのは恥ずいし、時々茶化され過ぎてぶっ殺してやろうかと思うときもあるけど、俺はそういうときおまえを見てるんだよ」
「僕?」
「ああ」
空也は、よいしょ、と立ち上がり、まだ座ったままの健一に手を差し出した。
「俺はおまえが嫌な思いしてなければいいんだ。おまえが笑ってればいいんだよ」
「スカイ……」
「もうとっくに俺はおまえ中心でまわってんだよ。それが恋人としてのけじめってもんだと思ってる。切り替えができなかろーが、俺もメンバーも気にしないし、そんなの時間が解決する。違うか?」
「違わない」
「じゃあ、いいだろ、この話は終わりな」
ほれ、と差し出した手を振れば、健一はおずおずとその手を掴む。そのまま健一の手を引っ張り上げて、空也は健一の身体を抱きしめた。
「これからは一人で悩むな」
「うん」
「おまえが背負ってるもの、俺にもちゃんとわけろ」
「うん」
「よし、じゃあ帰るぞ」
ぽんと頭を撫で、空也は会議室の出口まで歩く。そして扉に手をかけたところで振り返った。
「健一、スマホは見るな。俺も見ない」
「え、でも」
「後のことはこれからおまえとセックスしたあとで考える、わかったな」
「き、君って人は!」
「もう逃げるなよ」
呆れていた健一だったが、空也の言葉に小さく頷いた。
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