第9章:恋人の時間

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 激しいキスの応酬に、身体が溶けていく健一を胸に抱き、そのまま片手で健一のデニムのボタンを外し、腹から腰に向かって手のひらを滑り込ませ、臀部をなぞり、尻を露出させる。外気に肌が触れ、健一が慌てて顔を起こす。 「待って、ここでするの?」 「最後まではしねぇよ」  人差し指と中指を口に入れ、たっぷりの唾液を含ませる様を、わざと健一に見えるようにする。この指がどこにいくか、わからないほど子供ではない。すっかり蕩けた丸い瞳は指先をじっと見つめている。あどけなさを残した少年のような顔が、急に性欲に溺れたせいか、淡い色気を帯び始めている。このかわいい顔がどんな風に乱れていくのか、想像しただけで射精しそうだ。  尻の割れ目に向かって右手を滑り込ませ、閉ざされた蕾に触れ、濡れた指先で撫でていく。昔はこんな風にしてやれなかった。カッとなった怒りのまま、荒々しく指をねじこんで自身の欲望を許容できる大きさに広げただけだった。でも今は違う。心が繋がった今、ここでも繋がりたくて、でもできれば痛くさせたくないから、時間をかけて解してやりたい。  しかし、指を一本、二本と差し入れた瞬間、その抵抗のなさに違和感を覚えた。 「おまえ、ここ、なんかした?」 「……その、いつかこういう日が来ると思って、準備を」 「準備って一人で?」  胸に顔をうずめたまま、健一は頷いた。 「すぐに挿れれたほうがいいかなって思って」 「なんだそれ。だからって、はいそうですかって挿れるわけねーだろーが」  半分呆れながらも、思い直して左手で健一の後頭部を抱き、その頭にキスをした。 「俺が昔、おまえに無理やり突っ込んだこと、やっぱ忘れられねぇよな」 「……」 「ここに他のやつが入ったこと、ある?」  健一は返事をしなかった。こんなこと聞くのは野暮だが、過去に嫉妬したいんじゃなく、行為自体に対して恐怖を感じるきっかけが自分だったとしたら慎重にならなければいけないと思ったからだ。
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