第9章:恋人の時間

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「んあっ……あぅ…」 「健一、力抜け」    びちびちに赤く広がったそこに徐々に飲み込まれていく楔に、健一は息を乱し、目には涙を浮かべて、歯を食いしばっている。かつて、繋がるのは痛いことだとこの身体に刻みこんだのは自分だ。それでも欲しがるおまえはどうかしてる。 ――俺の挿れたい気持ちを受け入れようとするな。  本当はそう言いたい。受け入れるためなら痛みなんてどうでもいいおまえに、もう無理をさせたくないし、好き勝手するのは嫌だと理性ではわかっているのに、また目の前の快楽のために同じことを繰り返してしまう自分の浅さに反吐が出る。  経験のない相手に突っ込むことなんてなんとも思わなかった。最初に感じる痛みのことなんて考えたこともなかった。でも今は違う。健一を傷つける相手は自分も含めて許したくないのだ。 「スカ……イ…」 「やめるか? 抜いてもいいぞ」 「違う」  はぁはぁと息を乱しながら伸ばしてくる両手に身体を預ける。首に絡んだ両手は二人の距離をグッと近づき、健一は空也の耳元で囁いた。 「嬉しいんだよ。好きな人とひとつになれるって、幸せじゃん」  その言葉に迂闊にも胸がぎゅうっと締め付けられる。おまえはどんだけ俺が好きなんだ。あのときからずっとおまえは変わらないのか、と。 「クッソ……」  健一の背に両腕を回し、身体を抱きよせ、躍動を繰り返す。じっくりと時間をかけ、健一の奥深くまで、ぴっちりと咥えこまれる。 「入っ……た」 「ん、動くぞ。気持ちよくしてやりてぇから、もうちょっと我慢な」 「んっ……あっ…」  少しずつ少しずつ揺するように動かせば、ようやく空也の質量に慣れてきたそこは、徐々に緩めてくれる。健一の中の、いいところを探るようにして、腰の動きを早くしていく。 「ひぁっ……あっ、だめ、そこ…っ」 「だめじゃねえんだろ、ここな」 「ああっ、やっ……んんっ、あっ」 「かわいいな、おまえは」 「だめっ、激しくしなっ…いでっ……あっ」  激しくしたらどうなるんだ、なんて聞くだけ野暮だ。痛い思いを我慢したんだ。もっとよがれ、もっと乱れてみせろ。すっかり空也に快楽を委ねた健一は時折、シーツを握りしめたり、爪を立てたりしながら、穿つ腰の動きに合わせて身体が跳ねさせる。  
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