第9章:恋人の時間

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 玄関まで取りに行った健一が鬼の形相で、空也にスマホを投げつけてきた。 「おい、投げるな。あぶねぇだろーが」 「別に! あー、もうっ! 玄関と廊下がべたべたじゃん!」 「綺麗にしとけよー」  なんだか玄関でヒステリックな叫び声がしたが、いちいち気にしてられない。案の定、スマホには亮介や彰からの着信が大量に残っていた。一番新しい着信は亮介だったので、すぐにかけ直す。 「俺だ」 「ああ。お楽しみのところ、わるかったな」 「1回ヤッたから大丈夫だ」 「報告しなくていい」  亮介の、予想通りのうざそうな声に、今はなんだか安心する。これで、おめでとうだとか、よかったな、なん言われたら萎える。 「で、そっちはどうなった?」 「マナに連絡ついた。明日、事務所に来る」 「マジか、蒼か?」 「ああ。今、俺たちの事務所で大事にされていることをちゃんと説明したそうだ。ついでに事務所移転を前向きに考えるようにも伝えてくれた」 「そうか」  これは間違いなく蒼のお手柄だろう。 「あと桜庭さんは記事次第だと、ひとまずは静観するそうだ。おまえに伝言。『ヤリマン爆ぜろ』だと」 「マナとは、ヤッてねぇわ」  先っぽすら挿れてないのにヤリマン呼ばわりされたくない。 「まぁ、とにかくマナ次第だが俺に考えがある」 「どうせくだらないことを思いついたんだろうな」 「マナがノッてくれればな」 「わかった。明日、聞く。じゃあな」 「あ、亮介。ちょっといいか」 「なんだ?」  切ろうとしている亮介に声かけた。 「俺、あいつに昔のこと、ちゃんと謝ったから」 「……そうか」 どうせ亮介のことだから知っていると思った。知っていて、二人の間に入ることなく静観する。亮介はそういう男だ。 「大事にしてやれ」 「そうする」 「じゃあな」  自分と健一のことは、もはやHopesの問題だ。それが一つちゃんと形になった。  これでやっと反撃できる。この俺を陥れようなんざ、百光年早いんだよ。古狸が。自分しか知らない結末を想像して、堪え切れずに、ふはっと笑った。 「何笑ってんの、気持ち悪い」 「うっせ」 「どうせろくでもないことでも考えついたんでしょう」 「ったりめーだろ。よし、もう一回すっか」 「はぁ? やだよ!」 「遠慮するな。俺は、最高に気分がいい」 「知らないよ、バカ! まだそのシーツも換えないといけないのに」 「どうせまだ汚すからいいだろ」  逃げる健一を捕まえて風呂場で一回、そしてベッドでもう一回、お見舞いしてやった。  誰が人並みだ、ふざけんな。俺様をバカにしたこと、後悔しやがれ。なんてな。
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