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「よう、久しぶりだな。こないだは、やってくれたじゃねぇか」
空也の言葉に、マナはビクッと体を震わせる。
「写真見たぜ、部屋に来た時はあんなに変装してたのに、マンション入る時と出る時は顔だして、写真に映りやすいようにしてたんだな」
「……本当にその節は、申し訳ありませんでした」
マナは聞き取れるかどうかの、小さな声で告げると、申し訳なさそうに空也に向かって頭を深く下げた。
「で、川嶋には褒められたか? お手柄だったなとか労ってもらえたか」
「……」
マナは顔をあげ、小さく首を横に振った。
「どういうことだ?」
「スカイさん、マナさんは今朝、事務所に呼ばれたそうです。昨日の夜、ここに来ると決めてもう事務所も辞めるつもりでいたので、それを告げるいい機会だと思っていたそうですが」
「で、何があった?」
「そこにはクレセントムーンのメンバーも呼ばれていて、マナさんの騒動でグループを活動停止になるということにしようと」
「は? なんだそれ」
「なるほど、これをきっかけにグループを活動停止にして、それをスカイのせいにするつもりか」
察しのいい亮介は、ふむ、と頷く。
「社長から告げられてメンバーは落胆していました。きっと私を恨んでいると思います」
「なんだよ、それ。川嶋の指示だって言わなかったのか?」
「言えませんでした。言ったら信じてくれるかもしれません。でも、そもそも私はこれがうまくいったらソロデビューって約束を信じていたんです。その時点でもう抜け駆けしてるんです。恋愛禁止のアイドルが、そういうスキャンダルを起こしたらグループに迷惑をかけるなんて当たり前なのに、私は」
マナは、わっ、と泣き出した。空也たちが思っていた以上に汚いシナリオがそこにあったのだ。
「ようするに、お前のその甘いところまで利用されたってことだな」
「スカイさん、そんな言い方!」
「蒼、お前なら川嶋はそういうやつだって知ってるだろ。川嶋に何されたのか、忘れてないだろ」
「……」
かつて蒼がいた、トリコロールという高校生アイドルの中で、蒼は抜群の歌唱力だった。年齢を詐称してでもトリコロールに蒼は必要だった。そのために、会社員であることを隠し、事務所と会社の間で密約を交わして年齢詐称するという策を思いついた川嶋に蒼は逆らうことができなかった。それがバレた時、蒼は脱退ということになってもトリコロールは残してやると言われていた。時期を見て戻してやるからと言われたが、蒼は世間を欺いたことに責任を感じ、そのまま事務所を辞めた。
マナや蒼のように心優しい人間を平気で餌にして、芸能界で生き残るための策とする、それが川嶋のやり方なのだ。
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