312人が本棚に入れています
本棚に追加
「で、お前はどうするんだ。あの事務所に戻るのか」
「今はまだ、考えられません」
「じゃあ、いつ決めるんだ」
「……」
「すぐに決めろ。お前はどうなりたいんだ」
空也の言葉にマナは体を震わせるだけだった。別に脅すつもりもなければ、怖がらせるつもりもない。ただ、仲間として欲しいのは覚悟のあるやつだ。この芸能界を生きていく覚悟を決めた奴しか、仲間とは認めない。
「お前は悔しくないのか。ここに来たのはどうしてだ?」
今度は、亮介が優しく語りかける。
「それはスカイさんに、謝りたかったから」
「俺は別になんとも思ってねぇ。俺を利用したければすればいい。ただ、川嶋の狙いはお前をデビューさせることじゃない。俺たちを貶めることだ」
「えっ」
「俺たちは川嶋にとって芸能界で一番鬱陶しい奴らだからな」
「そうそう。唯一、俺たちは思い通りにならないしね」
すべての事情を把握しているメンバーはうんうんと頷く。
「だから俺たちは、あいつに一泡吹かせてやろうと思ってる」
「そんなことできるはずが!」
「マナさん」
声を荒げようとしたマナの肩に、蒼が優しく手を置く。
「俺はここでいろんなことを学ばせてもらってます。でもあの世界に戻ることを諦めたわけじゃないです。誰にも文句言わせない実力をつけてから、あの二人の元に戻りたいと思ってるんで」
「蒼くん」
「マナさんは一番俺の心配をしてくれましたよね。この人たちなら大丈夫です。だからマナさんも一緒に見返してやりましょうよ」
「見返す? 川嶋さんを?」
「そうです。あの華やかな世界に自分の実力で戻りましょう。川嶋さんの力を借りずに」
「そんなことできるかな」
「マナさんならできるはずだって俺は信じてます」
蒼の瞳は真っ直ぐマナを見つめていた。自分もかつて同じような決断をしたから、その言葉は重い。
「蒼、よく言ったね」
会議室に入ってきたのは、健一だった。
「健一さん」
「扉の外で聞かせてもらったよ。君がマナさん?」
「……!」
突然の健一の登場に、マナは両手で口を抑え、悲鳴を上げないようにしている。そうか、ずっと会いたかったな。
「ねぇ、頑張ってみない? 僕たちがついてるからさ」
「……うぅ」
「スカイのこと、信じてみて。僕たちスカイにずっとついてきて、今があるし、これからもきっと面白くてワクワクすることばかりだから」
亮介と彰がニヤニヤしながらこっちを見てるが、目を合わせてやるものか。
「あの……」
「何?」
「私、頑張ります! 健一さんと同じ事務所で働けるなら!」
「そっちかよ!」
ドッとその場でみんながずっこける。なんだよ、最初から健一が説得すればよかったんじゃねぇか、と呆れる。いや、きっと決め手になったのは健一の言葉だったんだ、と思いたい。
しかし、なんだかよくわからないやつが仲間になったものだ。まぁ、健一のことが好きすぎるってのが仲間になった理由でも、今はよしとするか。
最初のコメントを投稿しよう!