第10章:反撃の狼煙

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「まぁ、いいんじゃね? 話が早くてよかったじゃねぇか」 「確かに桜庭さんなら、大丈夫だと思うけど」  健一は、はぁ、と再び溜息をつきながら広げていた書類をケースにしまいはじめる。 「つーか、何、おまえ、最近、丸くなったの?」 「知らないよ。ていうか、初めてじゃないんだよね」 「あ?」 「だから、その、最近、スポンサーの方とか運営スタッフさんとかに、いいことありました? とかよく聞かれて」 「いいことあったのか?」  スカイが気楽に聞くと、扉に向かって歩いていた健一は急に振り返る。その顔はピンクに染まっていた。 「健一?」 「あったよっ! バカ!」 「は? バカってなんだよ。つーか、なんで顔赤いんだ」 「うるさいな! もう今日の仕事終わったでしょ、さっさと帰って!」 「帰れっていうなら車出せよ。おまえも終わりだろ。一緒に帰ろうぜ」 「なんか……やだ」    俯く健一に、空也は立ち上がり近づく。そして耳元で囁いた。 「いいことって俺のことか、ん?」 「……知ってて聞いてるでしょ」 「わかんねぇから聞いてんだけど。それじゃあ、帰ったら、もっといいことするか?」 「しない。だって明日レコーディングだから、その……声、枯れたら困るし」  恥ずかしそうに持っていた書類ケースで顔を隠す健一に、迂闊にもときめく。おまえ、わざとやってんの? 「あー、だめだ。ここでする」  健一の身体を壁側に寄せるようにして肩を抱く。 「待って、だめだって! 壁の向こうの事務室にマナちゃんも蒼くんもいるし」 「おまえが声出さないようにすればいいんだろ」 「そ、そういう問題じゃないってば!」 「声枯れるっていってたよな、じゃあやりたくないわけじゃないんだろ」 「そ、それはっ……んっ」  健一の顎を掬うようにして顎を掴み、唇を重ねる。なんだかんだと、キスを仕向ければ健一は拒みはしない。舌をねじこめば、ちゃんと応じる。 「おまえキスだけで勃っちゃうだろ、やめれんの?」 「でもだめだってば……っ」 「すぐに終わらすから」  空也がキスをしながら、健一の着ていたカットソーの裾から手を入れた瞬間だった。 「失礼しま……」  突然、会議室の扉が開き、そこにはトレーを両手に持ったまま、かたまっているマナが立っていた。桜庭に出した来客用の湯呑を下げにきたらしい。 「なんだ、向こう行ってろ」 「あの、マナちゃん、これは、その……!」 「健一さんとスカイさんが……わーん!」  そのままマナは会議室を飛び出していった。 「ちょっと、マナちゃん!」 「あれ、俺たちのこと言ってなかったのか、あいつに」 「言うわけないでしょ!」 「じゃあ、言う手間が省けてよかったじゃねぇか」 「そういう問題じゃないよ!」  そしてそのあと慌てて部屋に入ってきた蒼に、空也はこっぴどく叱られ、あげく、話を聞いた亮介が「事務所でセックス禁止」という不名誉な貼り紙を事務所に貼るのだった。
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