312人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ:空には虹があって
それから二週間ほどが経過した。ライブまであと一週間ともなると、ライブに関する裏方の仕事はほぼ片付き、次は出演者としての本格的な準備が始まる。
その日、空也を含めたメンバーたちは都内のライブハウスの控え室にいた。今日は都内で行われるロックライブにシークレットゲストとしてHopesに出演依頼があった。大型イベントの前は喉のコンディションを整えるため、極力レコーディングやライブ出演をセーブしているが、主催バンドがHopesとほぼ同期ということもあって引き受けた。しかも、インディーズ時代から対バンした仲ということで、ソロで活動している亮介にも声がかかった。出演の都合上、HopesとRyoが同じ楽屋になったこともあり、大和と亮介はギター談義に花を咲かせ、彰も健一と楽しそうに談笑している。
そんな風景を眺めているとなんだか、昔に戻ったような感じがする。
「失礼します。これからセットリスト配ります」
楽屋に黒いTシャツに身を包んだ蒼とマナが入ってきた。二人は手伝いで来ていて、マナがセトリの書かれたコピー用紙をメンバーに配り始める。
空也がマナが差し出した紙をうけとろうと手を伸ばした瞬間、マナと目が合った。
「サンキュ」
「……」
空也が礼を伝えるが、マナは空也と目を合わせようとしないで、すぐに目を逸らし、離れていく。今日に始まった態度じゃないので空也も気にしない。
「まだ続いてんのか」
しかし、ちょうどその険悪な瞬間を亮介が見てしまったようだ。
「仕方ねぇな。俺から言えることは何もねぇし」
「そりゃそうだが」
「ま、俺の態度はああだけど、仕事はちゃんとしてくれてるしな」
空也の返事に亮介は何か言いたげだったが、そうか、と一言だけ告げ、その場を終わらせた。
あの日、会議室で健一に迫っていた現場を目撃してからマナは空也に対して態度がよそよそしくなった。蒼から二人が付き合っていることを知らされたときにはかなり大きなショックを受けていたらしい。
そもそも三十過ぎた男が恋人がいるなんて珍しいことじゃないだろうに、と思うが、幼なじみで付き合いの長い空也で、しかも男だったことがどうやらショックの様子だ。本人が言うには、事務所で働かせてもらっているのはありがたい。社長には感謝している。しかしこれとそれとは別でしばらく心の整理に時間がかかる、と彰から聞いた。
健一に対しての態度は変わらないというのだから、これはもう時間が解決するしかないので、静観することにした。
「スカイ、アンコールどうする?」
それはさておき、今はこのあとのライブが重要だ。健一に声をかけられ、セトリをざっと目で追う。
最初のコメントを投稿しよう!