311人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
自分で言い出したくせに、当然基礎的な知識など持ち合わせていなかった。ただ、かっこよさそう、それだけだ。
「定番だとギター、ベース、ドラム、キーボード」
男がぽつりぽつりと楽器名をあげていく。
「あ、じゃあ、ドラムがいい! 二人の真ん中にいられるし」
「いいんじゃねーか。亮介は興味ある楽器はねぇのか?」
「五歳からギターやってる」
「は?」
思わず、健一と顔を見合わせる。
「マジかよ、ギタリストじゃん」
「父親がギター教室やってるから。アコギだけど」
「もうこれはマジでバンド組むしかねーな! 俺たちで天下獲ろうぜ」
こんなに物事がトントン拍子に進んでいいものだろうか。今まで音楽なんて興味なかったのに、心はすでに頂点を夢見始めている。
「くーちゃんは何を弾くの?」
「おれはメインボーカルだからいいんだよ! おまえな、高校生になったら俺のことはスカイって呼べって言っただろ」
「えー、呼びにくいよ」
中学で散々悪名を轟かせた自分がおとなしくしているのは、高校生になったら何かもっとでかいことを始めたいと思っていたからだ。だからずっとそばにいる健一に今までの自分ではないという意味で、空也ではなくスカイと呼べと言った。呼ばれる名前を変えて、自分の知らない場所で、今までの人生をリセットしてみたかった。
「もしかして空也だからスカイなのか」
「そう! かっこいいだろ」
「はっ……ははは」
男が急に顔をくしゃくしゃにして笑いだした。
「な、なんだよ。亮介」
「キラキラネームか」
「なんだと!」
「そうなんだよ、聞いてよ。りょーくん、高校に入ったらそう呼べってうるさいの」
健一は自らの人懐こい性格で、あっさりと亮介と打ち解け、りょーくんと呼ぶのに成功していた。
最初のコメントを投稿しよう!