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 薬缶から湯が沸いている音がした。火を止め、湯をポットに移してドリップする。慣れた手順だ。学生の頃祖父に教わってから、ずっと繰り返してきた。  成田はコーヒーをカップに注いだ。  彼は考え事をしているようだった。邪魔にならないよう、客の前にそっと出す。  彼は我に返ったように顔を上げ、前に立つ成田を見た。  目が合った。そのまま、2秒ほど見つめ合う。そらせなかった。  先に彼が視線を外し、手元のカップに目を落とした。ソーサーを引き寄せ、褐色の液体を覗く。 「……綺麗だな」  自然と口からこぼれたようだった。  成田の視線に気がつく。 「あ、いや」 「ありがとうございます」  成田はふふ、と笑った。  大きな形の良い手がカップを取り、ゆっくりとひと口飲んだ。息を漏らす。カップの中を見てもうひと口飲む。気に入ってくれたようだ。 「来た甲斐があったな。三原さん、旨いです」 「私は成田です。三原は祖父の苗字で」  やや驚いたように、彼は目を上げた。看板を見てそう思ったのだろう。 「それは……失礼」 「いえ、うちは三原珈琲店ですから。元々祖父の店で……祖父は母方なんです」  彼は成田を、何か確かめるように見ていた。 「いや……そうか。すみません、勘違いです」
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