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 店を出ると保科は人の流れに逆らい駅へ向かった。駅を通り過ぎ、今度は人の流れに乗り大通りに出る。程なく住宅街が広がった。  この辺りは道が入り組んでいるが、どこがどう繋がっているか、ほぼ頭に入っている。保科はいつもの道を外れ、遠回りをした。  カーブした細い道を進むと少し広い道路に出た。横断歩道を渡り、道なりに進む。この辺りはあるかなしかくらいの傾斜がついている。隣を自転車のライトが追い越していった。  大人になってみるとどうということもない出来事が、子供の頃は重大事だった、ということがある。後から客観的に見る視点と、当時受けた感情は乖離(かいり)していて、思い出すと笑ってしまうのだが、同時に痛みも蘇る。  たいていの出来事は大人になるにつれ忘れ、整理され、感情も差し引かれていくものだが、そのまま保存され、なかなか忘れられない。  三原珈琲店で彼を見かけたのは1ヶ月ほど前のことだった。たまたま通りかかった。そういえばこの道は小学校の通学路だったと気づいた。  ちょうど店のドアが開き、客が出て来た。見送りに出たのは若い男の店員だ。少し長めの柔らかそうな髪が、頭を下げるとさらりと顔にかかる。細身で、優しげな綺麗な顔をしていた。女性客が放っておかないだろうな、そう思って通り過ぎただけだった。  それから何かずっと引っかかっていた。そしてあの思い出と繋がった。
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