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 このところ、そのシーンが何度も繰り返し頭に浮かぶ。他愛のない出来事だが、一旦思い出すと一瞬で解凍されたように、感情や映像が鮮明に目の前に広がる。  小学2年の新学期に、隣のクラスに転校生がきた。転校生は珍しく、女子たちがしきりに噂をしていたが、保科は友だちと遊ぶのに忙しくあまり興味がなかった。  新学期が始まり数日経ったある日、廊下で見知らぬ女の子を見かけ、これがあの転校生かと知った。小柄で可愛らしい。彼女は通学路が一緒だった。  下校時間友人たちと別れると、彼女はいつもうつむいて歩いた。最初は泣いているのかと心配になったが、そうではなかった。  保科はいつも少し離れて後をついていく。声をかけることは出来ず、彼女も振り返らない。そのまま三原珈琲店の扉に入っていくのを見届けると、保科はほっとし、誇らしいような気分になった。遠くから見守っているつもりになっていた。  その彼女がある日、泣いていた。  理由はわからない。  梅雨も終わろうという、曇り空の日だった。下校時間いつものように友だちと別れると、真っ直ぐ店に向かうはずの足が別の道へそれた。保科はこっそりついて行った。  その足は帰り道とは反対側にある小さな公園に入った。遅れて中を覗くと、彼女はブランコに座っていた。ブランコは小さく前へ後ろへと揺れている。  保科は気になり、公園の前を通ったり、他の道を回って戻ったりしては彼女の様子を見た。なかなか声をかける勇気が出ない。
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