Achromatic(アクロマティック)

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1  私、乃木心(のぎこころ)は夕方の四条河原町界隈をトボトボと歩いていた。特に此処に来た目的は無い。ただ、アーケード街を真っ直ぐに進んでいくだけだった。  今の時刻は午後4時。夕日が出ているし、商店街の照明も明るく感じる。それに人ごみに合わせて歩くだけだから、特に周りに注意する必要もない。だから、私は思い悩んでいることがある時、心が苦しい時はいつもこの場所を散歩する。  阪急の京都河原町の改札を出て、「京都河原町ガーデン(京都マルイ跡)」の建物がある十字路から適当な場所をウロウロする。私は東山の方に住んでいるから、此処から帰ろうと思えば帰れなくもない。でも、気を付けなければならない。私は。だから、本当はもっと早い時間に帰るか、あるいは友達か先輩に付き添ってもらわなければならなかったのに……。そう考えた時に、私の目から一筋の涙が頬を伝った。  何故、私が一人でこんな場所に居るのか。何故、私が思い悩んでいるのか。それを話すには、少し時間を巻き戻さなければならない。
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