暗闇に潜む物

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 そう……僕には、この世ならざる者達が見えるという特異な体質がある。  しかも、くっきり、はっきり、生きている人間となんら変わらないぐらいに。  まあ、いわゆる〝霊能者〟という類に違いないのだが、ただし、その体質が現れるのは深い闇の中だけのことであり、明るい光の下では相反して、まったく目に見えることがないという、ちょっと変わった条件付きでだ。  それでも、子供の頃には夜や暗い所で見たくもないものが見えてしまうし、それが生きているのか死んでるのかも判別できないので随分と苦労したものである。  大きくなるにつれて、この体質との付き合い方にもだんだんと慣れていったが、普通の人達のような日常生活を送るにはやはり支障があり、社会人になってからも、ごくごく当たり前な就職というもままならない状況は続いた。  だが、ある日、ふとしたことからコペルニクス的発想の転換が僕の中で起きたのだ。  そうだ! この特異体質を活かした仕事をすればいいのだ! と。  その後もいろいろ試行錯誤の末、たどり着いたのがこの探偵稼業である。  闇の中ならば、僕には霊…というか、その土地に残された人の念のようなものを鮮明に見ることができる……言ってみれば、その土地の歴史のようなものだ。  そして、なんらかの理由でそこに残された強い人の念というものは、時としていわゆる〝心霊現象〟を引き起こす原因となっている。  だから、その原因を究明し、残された念を解きほぐして薄めてやることで、心霊現象による問題を解決することができる……それが、僕の仕事としている〝探偵〟なのだ。 「やっぱり小学校には不似合いなキャラクターだな……なんなんだろう? いったい……」  そんなわけで、さっそく僕は原因を探るため、松葉杖の男をじっくりと観察してみる。  中には敵意を向けてきたり、絡んでくるような念もあるが、そんな例外以外の多くは双方向に無干渉な、ただそこにいるだけの存在である。  世間一般の人々同様、僕にも自分達が見えていないと思っているのかもしれない。  松葉杖の男もその例に漏れず、コツ、コツ…とリズミカルな淋しい音を廊下に響かせながら、見開いた眼で真正面を見つめたまま、僕の脇を静かに通り過ぎてゆく……。  彼だけではまだ原因に結びつくような手がかりは得られない。他のも見てみなくては……。  どこを目指して歩いているのか? ただただ歩いてゆくその男の曲がった背中を見送ると、僕は別の目撃現場へと向かった。
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