暗闇に潜む物

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暗闇に潜む物

「――まあ、そんなわけなんで、ぜひとも先生のお力をお借りしたいと」  フロントの前に設けれた、ちょっと昭和な香りのするレトロな応接セットの内の一つで、テーブルを挟んで座る恰幅のよいいスーツ姿の中年男性がそう言って僕に懇願する。  ここは、都内某所にあるYホテル(※実名表記は差し控えます)。それなりの老舗で、建物は古いがけっこう大きなホテルだ。  で、今、目の前にいるのがこのホテルのオーナーである。 「フゥ……先生のおウワサはかねがね聞き及んでおります。先生ならきっと解決してくださると信じています。ですから、どうか、どうかこれこの通り」 「ああ、頭をあげてください! わかりました! わかりましたから」  一通り話終えるとテーブルに置かれたコップの水を一気に飲み干し、おでこが付く勢いで頭を下げるオーナーに、僕は手を前に出してその過剰な行為を制する。  僕の名前は夜見真明(よみさねあき)。オーナーは先生と読んでいるが、まあ、なんというか、言ってみれば〝探偵〟みたいなものだ。  でも、世間一般に言うところの探偵ともまた少し違う。  僕が調査する対象は生きた人間ではなく、この世のものでない(・・・・・・・・・)者達なのだ。  と言っても、いわゆる霊能者や祈祷師のように、霊を祓うとかそういうことをするんでもない。  他人に説明するのはなんとも難しいところなんだが……とにかく、「謎を究明する」という点に関していえば、やっぱり〝探偵〟という職業名がしっくりくるような気がする。  で、今回の依頼だが、困惑してる様子でオーナーの語ってくれた話を要約するとこうだ。  遡ればもう創業当時からのことみたいだが、どうやらこのホテルには出る(・・)らしい……それも頻繁に。その上、何体も……。  それでも、以前はまあ従業員の間や実際に見てしまった宿泊客、あとはその道のマニアの間で密かにウワサとなるくらいですんでいたのだが、昨今のSNSの普及が事態を一変させた。  ネットリテラシーのない宿泊客がホテルの実名をあげて体験談を呟いたがために、霊現象の話は瞬く間に拡散。お客の足が遠退く結果となってしまったのだ。
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