暗闇に潜む物

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「簡単でいいんで、ぜひ供養塔と、この歴史的事実を説明するパネルか何かを設置してあげてください。それから、できれば毎日お水でもあげてご供養を」 「ああ、はい。それはもう……ですが、供養塔はわかりましたが、説明パネルというのは……」 「多くの場合、彼らは自分達の身に起きたことを多くの人達に知ってもらいたいと思って現れるんです。知ってもらうことで、この地に強く焼きつけられた念というものもやがては薄れ、今のように目撃者が頻繁することもなくなるでしょう」  怪訝な顔を上げて聞き返すオーナーに、僕はそう答える。  まあ、僕のように見えてしまう(・・・・・・)人間はこれからも時折いると思うが、普通の人達が目撃することはなくなるはずだ。あとはミーハーな世間の御多分に漏れず、時間の流れとともに悪いウワサも徐々に消えていくだろう。 「わかりました。さっそく業者に手配します。夜見先生、どうもこの度はお世話になりました。いやあ、さすがウワサ通りのすごい霊能者の大先生だ!」  僕にやれることはここまでなので、これで今回の仕事も万事終了だ。そんな僕を安心した顔のオーナーは、必要以上に褒め讃える。 「いやあ、大先生なんてよしてください。僕はただの探偵(・・)ですよ。ただ、暗闇の中に潜む真実を究明するだけのね」  対して僕は苦笑いを浮かべると、彼にそう答えてこのホテルを後にすることにした。                    (暗闇に潜むもの 了)
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