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「――ここもたまに目撃される三階の部屋です」
「そうですか……なんか、レトロ感あって落ち着きますね」
案内してくれるオーナーに、その穏やかな昼下がりの空気が漂う畳敷きの部屋を見回しながら、僕はそう答える。
障子をあければ、眺望の良い小さな窓辺の空間があって、これまた小さな机と椅子二脚のセット、あのタオルを干すための金属製品が置かれている……まさにホテルの部屋って感じだ。
改修工事で綺麗になってはいるが、どこか昭和な香りの漂う鉄筋コンクリ五階建てのホテル……なるほど。高度経済成長期に建てたという話だったので、この名残りはそのせいだろう。
学校の跡地を使ったのならば、このホテルの大きさも頷ける。そうした歴史というものは、やはり記憶としてその土地や建物に残るものなのだ……彼らと同じように。
「うーん……特に変わった所はありませんね。やっぱり明るいとダメかあ……」
だが、見たという部屋やその階の廊下、階段を回ってみたものの、そこにはなんの変哲もないホテルの風景が広がっているだけで、これといった新しい手がかりを得ることはできなかった。
まあ、それは僕の体質に由来するものなんだろうけれども……。
ただ、目撃談のあった場所は一階〜三階に集中しており、そこからはやはり、前にあったという小学校の建物の構造が連想される。
「てことは、やっぱりその小学校で何かあったってことなのかな? なんか、その学校時代に事件・事故があったなんて話は聞いたことありませんか?」
「さあ? 私の記憶では……」
その可能性をオーナーにぶつけてみたが、その答えは今度も解決に繋がるようなものではない。
ま、これぐらいで手がかりが掴めないのは想定の内だ。そもそもこれは下見の意味で回ってみたようなものであって、本番はまた日が沈んで暗くなってからである。
「いずれにしろ、昼間じゃ見ても無駄か……だいたい場所はわかりました。また夜になったら見てみましょう」
不安そうな顔のオーナーにそう告げると、僕はその本番が行えるようになる日没の時を待つことにした――。
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