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次に目指したのは最も目撃談のある二階の角部屋だ。
だが、階段を上がるとすぐに、僕は次なる想念の残滓を眼に映すことになった。
……いや、視覚だけではない。僕の聴覚も、先程の松葉杖同様、その存在をしっかりと捉えている。
…キィ……キィ……と、暗闇の中に淋しく響き渡る車輪の軋む音。
それは、包帯ぐるぐる巻きになった患者を載せて、車椅子を押す看護婦さんだった。
車椅子に乗っているのは、やはり浴衣姿で、その下は全身に包帯を巻いたミイラのような男だ。眼の部分も含めて、顔は全面が包帯に覆われていて見えない。
どこか淋しげな顔をした看護婦さんの方は、ワンピースタイプの白衣を着て、ナースキャップをかぶるという定番の格好だが、その白衣の肩はパットを入れているかのように大きく膨らんでおり、なんというか、メイドのお仕着せみたいで古風な印象を受ける。
「やっぱり病院関係みたいだけど、小学校よりも前の時代の出来事なのか?」
レトロな彼女の服装にそんな考えを巡らせつつ、僕は脇へと避けてぴたりと壁に背をつける。
すると、ひんやりとした感覚を背に覚える僕の前を、なおもキィ……キィ……と不気味な軋み音を響かせながら、松葉杖の男同様、車椅子と看護婦さんもそのままのスピードでゆっくりと廊下を通り過ぎてゆく。
大概、こちらを気にかけていない場合は、ぶつかってもただすり抜けていくだけなので避ける必要もないのだが、やっぱりなんだか気持ち悪いので僕は避けるようにしている。
「あの看護婦さんの白衣がヒントだな……」
少し取っ掛かりのようなものを感じつつ、さらに真っ暗な廊下を奥へと突き進んだ僕は、いよいよ本命の二階角部屋へ足を踏み入れた。
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