第32話 戻らないもの【響子 視点】

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二人の世界というかんじで、なぜ私がここにいるのかすら、どうでもいいことのようだった。 私はただなにも言えず、その場に立ち尽くし、ポケットからマンションのキーを取り出して、それを郵便受けにいれた。 ―――腹が立つくらいみじめな気持ちになりながら。 二度と、ここにくるもんですか! なにが響子ちゃんがいないと僕は死ぬかもしれないよ! ピンピンしてる上にほかの女をもう連れ込んで。 「離婚して正解ね!」 マンションから出た私がスマホのメールに気づき、ひらくと新崎からでマンションにあった荷物は全部、コンテナ倉庫に入っていると住所と個数が明記された事務的なものだった。 『楠野屋』を裏切った私がどこも行けないことを知っていて、コンテナ倉庫にしたのだろう。血も涙もないとはこのことだ。 これからどうすればいいかわからない。 でも、月子や公康さんに謝罪? そんなの冗談じゃないわ! この先、どうしたらいいかわからなかったけど、二人には謝らない! それだけははっきり決めていたのだった―――
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