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髪は結えたけれど、文金高島田の上に綿帽子をかぶされて、三十分はかかったこの髷に何の意味が?という気持ちになっていた。
私がふらふらしているというのなら、空腹のせいかもしれない。
昨日から緊張のあまり何も食べていなかった。
お母さんに『食欲がない』と言ったら
「あら、ちょうどよかったじゃない。水もあまり飲まないようにね」
そう返事が返ってきた。
なんて酷い。
だいたい結婚の話を持ってきた時も『この話を受けないのなら、家から出て行ってもらう』『何もできないあなたが家から放り出されたら、どうなるかわかるわね?』『ライフラインを失ってもいいのか!』そんな脅しをかけてきた。
鬼、外道!!と思ったけど、何もできない私が悪いのはわかってる。
自分が選べる立場じゃないことも。
この人見知りのせいで、顔合わせの時も俯いていたから結婚相手の顔もよく覚えていないし、妹じゃなく、私が結婚相手になってガッカリしている顔を見たくなくて、ずっと俯いていた。
だから、私と結婚する新崎天清さんの顔はわからないままだった。
―――初夜までは。
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