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「ほら亜由美、見てごらん。前に話してた下田理沙さんだ」
スマホの画面に写っているのは派手な化粧をした若い女性。
「何か派手な人」
思わずそう呟くと父さんはちょっと困ったような顔をした。
「仕事が終わってすぐの時に撮らせてもらったからかな。仕事柄化粧には気合入れてる、なんて言ってたから」
しょんぼりと俯く父さんを見て後悔する。私は別に父さんを困らせたいわけじゃなかった。母さんが亡くなってそろそろ三年が経とうとしている。当時小学四年生だった私ももう中学生だ。その間父さんは慣れない家事と仕事の両立で随分大変だったろうと思う。幸せになってほしい、そう思っていた。
「ふぅん。まぁ、父さんが気に入ってるならいいんじゃない?」
とってつけたような言い方になってしまったが私の真意は伝わったのだろう。父さんは「ありがとな」と言い私の頭をぽんと叩いた。
「亜由美も母親がいた方がいいと思うんだ。でも無理にとは言わない。亜由美が反対するなら父さんこの話はなかったことにするつもりだからね」
私はスマホの画面にもう一度視線を落とす。女はずいぶん若く見えた。父さんも若く見えるとはいえもう四十五歳。大丈夫だろうか、この女に騙されてるんじゃないか。ふとそんな考えが頭を過る。
「この女性ずいぶん若く見えるけど、何歳なの?」
私の問いに父さんが気まずそうに答える。
「うーん、ちょっと年の差はあってね。今年で三十歳なんだ」
「三十?! 父さんより十五歳も年下なの?」
思わず素っ頓狂な声が出る。さすがに年が離れすぎているのではないか。
「でもとてもしっかりした女性だよ。エステサロンで働いてるんだ」
「へえ。でもまさか父さんがエステサロンに通ってるわけじゃないでしょ? どこで知り合ったの? 誰かの紹介?」
何となく胡散臭いものを感じてついつい詰問口調になる。
「何だか取り調べみたいだなぁ」
父さんはそう言って笑った。
「会社の後輩に島津っているだろ? 家にも遊びに来たことのある。あいつの紹介なんだ」
島津は父さんの後輩で確か二十代後半のチャラい男だ。「亜由美ちゃん彼氏いるの? 最近の子はませてるからなぁ」何てことをニヤニヤしながら聞いてくるようなデリカシーのない奴で大嫌いだった。確か既婚者なのだが奥さんとうまくいってないらしい、なんてことを父さんが言っていたように思う。私は「ああ」とだけ答え三度女の画像を見た。
(何か嫌な感じ)
真っ赤な唇がまるで獲物の血に塗れた肉食獣の口を思わせる。私はひどく嫌な予感がして眉間に皺を寄せた。
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