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今日はサッチンの家に集まって、闇鍋を開催することにした。
皆、それぞれが持ち寄った具材を見せず、また鍋の中は見ないで、具材を放り込み、台所でグツグツ煮てから、鍋敷きを置いたコタツの上に置いた。
サッチンがリモコンで電気を消して、さぁ、闇鍋開始だ。
この闇鍋を企画したサッチンがまず喋りだした。
「佐助、みょん、今日は僕が企画した闇鍋に参加してくれて有難う。お日柄も良く、晴天に恵まれた。これも日頃の行ないが良いからでしょう。いや日頃の行ないは関係無いか。僕は結構人前でゲップとかしちゃうし」
と言ったところで、俺はツッコんだ。
「いやいや、そんな中身の無いスピーチはどうでもいいから。早く食べ始めようぜ」
それに対して、みょんが快活な声で、
「そうそう! アタシはこの闇鍋のためにダイエットしてきたんだから!」
すかさず俺はツッコむ。
「いやそういう大食い企画みたいなことじゃないから、闇鍋って」
それにみょんは口で、
「プンスカ! プンスカ!」
と言った。
いや
「口で言うヤツじゃないだろ」
「でも今は真っ暗なんだから口で言わないと分かんないじゃない! ただでさえ男子ってば分からないほうなんだから、今回はなおさら口でいくよ!」
「男子とか、今は関係無いだろ」
「でも実際、サッチンも佐助も男子だから、アタシの気持ちが伝わらない時もある!」
ちょっと言い合いみたいになったところで、サッチンが、
「もう、そんな口喧嘩はお腹いっぱいだよ、ゲプゥ~~~~~~」
という深みのある、コクの強い、ビブラート強ゲップをしたので、俺とみょんは笑ってしまった。
俺は見えないだろうけども、一礼してから、
「何か変な言い合いのテンションになってゴメンな、みょん」
「ううん、いいよ! アタシも何かこの前彼氏に振られた時に作り上げてしまった男子への恨みテンションが高まっちゃった!」
俺もみょんもサッチンも笑い合った。
やっぱりこの三人は最高だな。
最高の幼馴染だ。
この三人でずっと一緒にいたいな。
ちょっと静かになったタイミングでサッチンが言った。
「じゃあそろそろ闇鍋を始めようかっ、ルールは簡単。箸で取れた一つの具を食べる。これだけっ! まずは僕からいくね!」
とサッチンが言った瞬間だった。
どこからともなく『プゥゥウウウウ』という妙に高音な謎の音が聞こえた。
いや、というか、
「おい、サッチンかみょん、オナラするなよ」
と俺がツッコむと、サッチンが、
「じゃあどっちでしょうか」
と言ったので、
「闇鍋している時にオナラ当てゲームはいいんだよ、サッチン。じゃあみょんがしたかしていないか言ってくれ」
それに対してみょんは妙に嬉しそうに、
「どっちでしょう!」
と声を上げた。
いや
「そんなん言い出したら俺の可能性も出てくるだろ、まあ俺は違うけども」
サッチンは語気を強めながら、
「じゃあ佐助ではないね! さぁ! どっちでしょう!」
みょんもやる気満々の声で、
「佐助! どっちだと思うっ? 答えて答えて!」
いや!
「何でそんな俺に当てさせたいんだよ! オナラ当てクイズはどうでもいいんだよ! 闇鍋が主役だろ!」
サッチンが溜息をついてから、
「オナラ当てクイズを当てないと、闇鍋の中にオナラが入ります」
みょんも何か楽しそうに、
「そう! そう!」
と叫んだ。
いや、
「オナラは気体だから最悪もう鍋の中に入っているだろ。そんなことより闇鍋しようぜ、まずサッチン、何食べた?」
「いやまだ全然食べていないよ。オナラ当てクイズを真剣に取り組んでよ、佐助」
みょんも同調するように、
「そうだよ、佐助のオナラ当てクイズの章を終わらせないと、次の事件は起こらないよ」
俺は呆れながら、
「どんなアドベンチャーゲームだよ、闇鍋の章に早く行こうぜ」
しかしサッチンとみょんはここで黙ってしまった。
というより俺の回答を待っているみたいだ。
それならば、
「じゃあサッチンかな、サッチンは人前で平気でゲップやオナラするから」
と答えると、サッチンが大きな声で、
「ブブー! 僕はこんな良いタイミングでオナラを出せないでしたー!」
「いや別に良いタイミングではないけどもな、闇鍋的にかなり悪いタイミングだけどな。じゃあみょんかよ、女子がオーソドックスにオナラをこくなよ」
「別に女子だって普通にオナラこくよ! そういうのは差別だよ! でも今回のオナラはアタシじゃないよ!」
サッチンが生返事しつつ、
「えっ? じゃあ佐助ってこと?」
「いや俺じゃないから、オナラ当てクイズの章終わらせたいを連呼して『オナラの本人は俺でした』じゃサイコパスじゃん」
みょんは唸ってから、
「う~ん、確かに佐助はツッコミだからなぁ」
「いやそんな漫才の役割みたいに言うなよ、確かにそうなりがちだけどな」
するとサッチンが、
「じゃあ一応確認に、電気付けてみるね」
「いや誰がオナラしたかの確認、電気で出来ないんだよ」
そう言いつつも、サッチンがリモコンで電気を付けた刹那、みょんが叫び声を上げた。
「キャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
何だと思って俺とサッチンでみょんのほうを見ると、
「目の前! 目の前!」
と言うので、俺とサッチンは顔を見合わせると、
「そうじゃなくてぇぇえ! アタシの目の前!」
と言ったので、俺から見れば右隣を見ると、なんと俺たちが座っているコタツに、見たこと無い女性が普通に入って座っていたのだ。
その見たこと無い女性はこう言った。
「召喚されてでてきたら、暗くて怖すぎて、オナラしちゃました。すみません」
いや!
「召喚って何っ? 闇鍋かっ! 闇鍋のせいなのか!」
その見たこと無い女性はさらに、
「この器の中ってもしかすると、何らかの大量の血と何らかの肉・骨とニンニクと魔法陣入ってますか?」
と言ってきたので、肉・骨・ニンニクはいいとして、何らかの大量の血と魔法陣なんて入っていないだろ、と思っていると、サッチンが神妙そうに、
「スッポンの血って、関係しているかな……」
と言ったので、まさしくそれじゃんと思った。
いやでも魔法陣は、と思っていると、みょんが声を震わせながら、
「元彼から貰った魔法陣のハンカチ、もういらないからアタシ入れたけども、あれ、マジの魔法陣だったんだ……」
いや!
「まずハンカチを入れるなよ! 食べられるモノだけにしろよ!」
とツッコんだところで、みょんが慌てながら、
「でも肉と骨とニンニクなんて普通入れるぅっ?」
と声を荒らげた。
いや!
「豚肉と豚骨とニンニクは別に入れていいだろ! 俺が入れたんだよ!」
それに対してサッチンが、
「すげぇの入れてた……佐助……」
「いや! 絶対スッポンの血のほうがすごいだろ! もはや何目的だったんだよ!」
しかしみょんもサッチンに同意するように、
「佐助がえげつない……」
「そんなことないだろ! 普通過ぎるだろ!」
見たこと無い女性、というか召喚されたと思われる何者かも、
「じゃあ佐助さん、貴方が私を召喚した張本人ですね」
と言ってきたので、
「それは絶対違う!」
と今日一の声が出た。
いや何だよ、闇鍋の日だろ、今日。
闇鍋が主役の日で、オナラ事件からの召喚事件って何だよ、意味分かんないから。
とにかく俺は闇鍋をするテンションなんだよ。
だから
「召喚された貴方、用は無いので帰って下さい」
と俺が冷たくあしらうように言うと、サッチンが、
「出たっ、佐助の冷たい一面が……」
と言い、みょんも、
「この一面が無ければ男性としてもいいんだけどねぇ」
いや
「そんな異性としての評価をするなよ、俺たちは三人で仲の良い幼馴染軍団なんだから恋愛とかナシでいけよ」
と言ったところで、みょんが黙ってしまった。
サッチンも何だかどうすればいいか分からない表情をしたので、一体何なんだと思っていると、召喚された何者かが、
「マジ恋ですかね」
と言ったところでみょんが大きな声で、
「わぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!」
と叫んだ。
サッチンも立ち上がって、
「ちょっとぉちょっとぉ!」
と声を上げた。
いや何この雰囲気、というか、えっ、マジでみょんって俺のことがちょっとは気があるのか……?
みょんのほうをチラリと見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
いや、いやいやいや、いやいやいやいや!
「闇鍋が主役の日だろ! 俺は闇鍋を結構楽しみにしていたんだよ!」
するとサッチンが立ち上がったまま振り返り、
「いいや、主役はみょんと佐助だ、二人っきりになりなっ」
と言った。
いや!
「ここサッチンの家だから! 家主が去ろうとすんなよ!」
でもサッチンが一歩二歩と玄関へ向かって、ゆっくり歩き出したので、
「じゃあ! 召喚された貴方も外へ出ろよ! 二人っきりにしろよ!」
とツッコむと、みょんが、
「積極的なんだからぁ」
と優しく微笑んだ。
いや!
「何か俺が告白するみたいになってる! 俺はみんな仲良く三人組でいたいんだよ! 恋仲とかナシで! これだとサッチンがあぶれちゃうじゃん! そういうの嫌なんだよ!」
と叫んだ瞬間、召喚された何者かが手を挙げ、立ち上がり、
「私、女子のあやかしです。じゃあサッチンさんは私と付き合いましょう」
それにみょんは拍手して、サッチンは振り返った。
召喚された女子を名乗るあやかしはこう言った。
「三人組の幼馴染としての楽しさよりも、みょんさんの幸せを優先するサッチンさんの自己犠牲精神、私は素敵だと思います。そんな優しいお方と私はお付き合いがしたいです」
サッチンは居間に戻ってきて、召喚された女子と抱き合った。
いや!
「闇鍋が主役の日だろ! どうなってんだよ! 今日! というか! じゃあ女子がオナラするんじゃないよ!」
みょんは首を横に振ってから、
「男子も女子もオナラをする。そして男子も女子も恋愛するんだよ。好きです。付き合って下さい」
と言ってきた。
いや!
「告白の台詞とオナラの台詞を同時に言うなよ!」
「それは本当にゴメン。アタシもミスったと思う。でも告白はマジだから、佐助、どうかな……?」
「告白はマジなのかよ……まあいいよ、何かサッチンも幸せそうな顔してるし、それならじゃあいいかな。うん、付き合うわ」
それにサッチンと召喚された女子は拍手をした。
何このハッピーエンド感。
いやまあ始まりだけども、始まりだけどもさ、でもさ、
「闇鍋が主役だろ! 闇鍋を始めるんだよ! 何が始まってんだよ!」
(了)
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