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地球のまばたき
いつかおばあちゃんは僕に言った。
「真夜中のわずかな時間だけ、すべての星や月が消えて、真っ暗闇が訪れるんだよ」って。
あの頃はまだあまりに幼く、気にも留めていなかったけど、最近になって急に興味がわいてきた。
それから僕は、眠さに耐えきれず寝落ちしてしまうまで、空を眺めて過ごすことにした。でも、なかなか起きていられない。気づけば朝になっている。そんな日々が続いた。
ところが、今夜はなんだか妙に目が冴えている。もしかしてずっと起きていられるかもしれない。なぜだかそんな自信もあった。
春と夏の狭間。少しひんやりとした夜風を頬に浴びながら、ぼんやりと空を眺める。すると、何の前触れもなく、その瞬間は訪れた。
キラキラ輝いていた星たちも、輪郭がぼやけたお月さんも、突如としてその姿をくらませ、またたく間にこの世界は暗闇に包まれてしまった。
「地球がまばたきするからだよ」
おばあちゃんが言うには、この現象は地球がまばたきして目をつむることで起こるそうだ。地球も僕たち人間と同じように景色を眺めている。星や月は地球の目に映る景色。だから、地球が目をつむれば光も差さない。世界は真っ暗になってしまう。
おばあちゃんの作り話とばかり思っていたけれど、圧倒的な暗闇を前にして、僕はそれを信じるしかなかった。
何分くらい経っただろうか。僕はすっかり暗闇と同化していた。
大きく目を見開いても、何も見えない空。不思議と居心地は良かった。そんな特別な時間に耽っていると、階下で物音がした。そして、女の人がすすり泣くような声。
「ママかな?」
せっかく夜ふかしして掴んだこのチャンス。もっと浸っていたかったけれど、胸騒ぎを覚えた僕は、ママの様子を見に行くことにした。
部屋を出て、廊下を歩き、静かに階段を下りる。声は徐々に鮮明になっていった。
泣いてるわけではなさそうだ。
どこか喜んでいるようにも聞こえる。
そして、女の人の声だけじゃなく、男の人の唸るような声も聞こえてきた。
「パパかな?」
いや、パパは出張に出ていて今日は家にいないはずだ。
じゃあ、誰の声?
寝室のドアをそっと開ける。
間接照明が照らすベッドのうえには、激しく揺れ動く二匹のケダモノがいた。寝室の壁には、ケダモノが交わる影が大きく引き伸ばされ、今にも僕のことを喰ってしまいそうだ。
僕はこわくなって、目ん玉が潰れてしまうほど、強く強くまぶたを閉じた。
すると、見慣れたママの寝室も、間接照明の明かりも、二匹のケダモノも消え去り、そこには暗闇だけが残った。
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