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 試してみる価値はあった。そこで僕は村の学校に忍び込むことにした。お父さんの命令で、僕もここに仕方なく通っているのだ。下々の人たちの感覚を知るためだと言われたけれども、おかげで両生類の感覚まで身につけることができた。ありがたいことである。  忍び込むならもちろん夜だ。宿直の先生が泊まっていて、ちょうど居眠りをしているようだったけれども、どっちにしてもこっちはカエルだから、全く気づかれずに建物に入ることができた。一学年から六学年までの教室が、廊下へ順番に並んでいる。人間の時よりも広く感じられる床を飛び跳ねていった。  僕は五年生である。自分の教室に着くと、ここでもちょうど扉が少し開いていた。さすがにカエルでは開けられないので、運がいいぞと思ったけれども、本当に運がよければカエルにされたりしないだろうから、やはりたまたまだったのだろうと思い直した。  目指すは教室の一番奥にある窓際の机だった。そこはティナという女の子の席で、彼女はこのクラスで一番かわいいと男子から言われている。僕はそれには反対で、彼女はこの学校で一番かわいい子だと思っていた。  勘違いされたら困るのだけれども、顔とかそういうのではない。性格が良いのである。学校中の女子は全員、僕のことをあからさまにではないにしろ、汚らわしいものみたいに扱っているが、ティナだけはそうではないことが分かる。王子だろうと一般庶民だろうと、ウサギだろうとヘビだろうと、誰にでも優しいのだ。彼女は生き物がかりだった。  きっとカエルも好きだろう。お願いすればキスもしてくれるかもしれない。けれども魔法を解くためというのも、何だか口実というか言い訳っぽいし、そんなことを口にできるぐらいならば、とっくに友達もできていると思う。  僕にできるのは、彼女の縦笛に口づけをすることぐらいだ。勘違いされたら困るのだけれども、僕だってこんな変態的なことはイヤだ。でも魔法を解くためなのだから仕方ないのである。
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