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すると室内に人影が動いた。侵入者がいたらしい。宿直の先生が寝ていたのも、教室のドアが開いていたのも、たまたまではなかったのだ。
背丈からして大人ではない。窓から射し込む月明りに照らされて、相手の顔が見えた。そいつはなんとハンスらしく、同じクラスの男子で、いつも僕をいじめているやつだった。
こんな夜中に何をしているんだと思っていたら、ハンスはティナの机に忍び寄り、かがみ込んで物入れの中をまさぐっている。しばらくして目当ての物を見つけたらしく、彼の手に細長いケースが握られているのが見えた。そこからゆっくりと縦笛を引きずり出して、頬にうすら笑いを浮かべながら、うっとりとした眼で見つめている。
変態だと思った。ハンスはティナのことが好きなのだろう。その思いを抑えきれずに、とうとう夜中の学校に忍び込み、彼女の縦笛に口づけせずにはいられなくなったに違いない。僕は魔法を解くためだから仕方ないけれども、彼の場合は言い逃れできない。御愁傷様だ。
でも思い通りにさせるわけにはいかなかった。ハンスよりも先にあの縦笛に口づけしないといけない。もし彼に先を越されてしまえば、ティナとではなくて男子とキスすることになってしまうだろう。ぜったいに人間には戻れまい。
もちろん人間に戻るだけならば、他の女の子の縦笛でもかまわないのかもしれない。でもどうせならかわいい女の子の物が良いに決まっている。
僕はハンスの体をよじ登り、彼の肩で待機した。ハンスは焦らすように、笛を色んな角度に変えて眺め回してから、おもむろに吹き口を自分の唇へ近づけていった。今にもそれらが触れ合おうとした瞬間、僕は飛び上がって笛にしがみつき、ティナと間接的にキスをしたのである。
みるみるうちに笛が小さくなっていた。けれどもそれは実は、自分の体が大きくなっていったからだったことに気づいた時には、もう人間に戻っていた。成功だ。
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