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彼女の発する高音域の声は僕の耳に届かない。
独り彷徨うこの身を助け、山頂まで至る道程をサポートしてくれた彼女が幾度口を開き、語り掛けて来ても聞き遂げる事はできなかったのだ。
少し考えれば分かった筈なのに。
僕等は蜜蜂の群れの役割には名前を与える。たまに女王蜂ぐらいにはニックネームを付ける輩も居るだろうが、群れが一つの個体と成る生き物のたかが一匹に、いちいち名前を与える者は居ない。群れが一個体に過ぎないならば、彼女も一つの器官として存在するだけで、名前は必要とされていなかったのだろう。
(君は女王になるんだ)
特別な彼女に素敵な名前をと願っても、朦朧とした意識は考えをまとめてくれない。
抱き締めてくれる腕の中から見上げると、背にある鬣とも鰭ともつかない器官の左右から、背骨に沿って等間隔に生えていた六対の翼が広げられるのが見えた。一対一対が微妙に形状を変え、昆虫のものとも鳥のものとも判断がつかない。海の中で水を掻く、魚の鰭の様にだって見えるのだから。
半ば透き通るそれは、広げられると一層に彼女の神秘的な美しさを際立たせた。
天より降り注ぐ星の光を透過させ、彼女の身体が輝いていると錯覚する程に。
違う、実際に彼女の体は輝きを纏い始めている。
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