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呼吸に合わせて仄かな光を明滅させ、背に生えた翼で緩やかに僕を含む彼女自身の体を包み込む。
(ここから始めましょう)
背後の森がざわめくのを聞いた。
故郷に少しでも近い場所を求めた僕が、彼女と遭遇した場所。僕の望みを汲んで、今居る山の頂きへ、僕を運んでくれた彼女の潜んでいた場所。
暗闇の中で、淡い光が僕等を包み込む。
命の息づきを反映し、緩やかな明滅を繰り返すあえかな光を森全体も纏い始めている。
揺らめく森が彼女の一部だと気付くには少し時間が掛かったけれど、それに気付いた途端、僕は思わず震える腕を広げて彼女に笑い掛けていた。こんな塵芥の如き小さな命を受け入れてくれる大いなる存在へ限りない感謝を。
僕よりも二回りばかり大きいと思っていたけれど違った。
彼女は特別に作られた個体なのだ。特別な巣の中で、特別な栄養を与えられて育まれる蜜蜂の次期女王が大きく育つ様に。
再び彼女の胸に額づけば、耳の中に細波の音が忍び込む。人とは違い拍動を刻む心音はしない辺り、彼女の肉体を巡る循環器系は心臓を介さないのかも知れない。
人とはまるで違う命の成り立ちを考えながら夢想し続けた。
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