星辰航路

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赤方偏移の移行ぶりを何処かで計算ミスした僕達は、予測よりも濃い酸素の中に次々と突入して燃え尽きたのだ。 化石でしかその真の姿を見る事のできぬ石炭紀の昆虫に似た巨大な生物が闊歩(かっぽ)し、緑豊かな森林に覆われる地表に落ちた移民船団は壊滅(かいめつ)した。 唯一人、生き残る幸運に恵まれた僕を置き去りにして。 通信技術は有っても、宇宙の広さの前では余りに遅過ぎる。 光年の隔たりが間延びさせる情報のやり取りの前に、救難信号は意味を成さない。 同じ太陽系内ですら、双方向のリアルタイムでの通信を困難にさせる事実を知るなら、助けを望むのは無駄なのだと僕は解り過ぎている。 厳選される情報以外は、余りにも多く捨て去られてしまう情報。その中には、計算ミスに繋がるものも有ったかも知れない。 けれど、もう、遅過ぎる。 触れた唇を離し、再び右頬に鱗の浮く掌を寄せて瞼を閉じる。 多過ぎる酸素に、呼吸は次第に荒くなり胸が苦しい。 肌に触れる命の温もりに、安らげなければ心はとうに崩壊していただろう。 人に似ているけれど、人よりも大きな掌は自分が幼子に戻り、母の手に包まれているかの如き錯覚を覚えさせて底知れぬ安堵を与えてくれたから。
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