星辰航路

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感謝をしよう。地球外の知性に巡り会えた、最後の奇跡に。 (………て…………を…) 途切れ途切れに、不思議な音が脳裏に響く。 ゆっくりと瞼を開ければ、眼前で幾度も同じ動きをなぞる愛しい存在の唇。 (意識を、離さ、ないで……。アナタの……言葉、覚えています) 目を見張った。これ程の短時間で新たな言語を習得するなんて、どれだけ高い知能が有ると言うのか。ここには文明は存在せず、未開の土地があるだけの星だとAIは弾き出していたが。 否、彼女に出会った時点でAIの判断は疑うべきだったのか。 人の尺で全ての物事を計った行為こそが、手痛い失敗を招き寄せた(おご)りだったのだろう。 朦朧(もうろう)としかける意識へ、直接語り掛けて来る音を(とも)わない声は次第に、ハッキリとこの世界を伝え出していた。人にはない精神感応の能力。 (私達は新たな伴侶(はんりょ)を求めています。ここは同じ個体だけで出来上がった世界。一つの種しかいない閉じた世界) 均一化した遺伝子しか持たないのか。 とてもそうだとは思えない。この頂きに登る間に見ただけでも多彩な姿形。発現する形質は地球で見られた生態系を(しの)ぐ豊かさ。眼前に存在している貴女の姿は、まるで御伽噺の神聖な生物の様に幻想的な美しさを(まと)っているのに。
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