プロローグ

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プロローグ

 部屋の電気をつけると、そこには機械やケーブルが無造作に散乱していた。  ケーブルを目で追っていくと、人1人が余裕で入れるような物々しい機械が鎮座していた。 「これが、タイムスリップ装置ねえ」  その機械だらけの部屋にはあまり似つかわしくない、どこか古びた制服を着た高校生ぐらいの女の子が、不敵な笑みを零しながら一歩一歩その機械へと近づいていく。 「あれ、これってどうやって使うの?」  機械の手前まで来ると、女の子は先程までの不敵な笑みとは打って変わって、情けない声を出すと、拗ねた子供の様に口先を尖らせて機械にもたれ掛かる。  すると、女の子の声に反応するようにして機械が起動音を鳴らして始め、直ぐに電子音声による操作説明を話し始める。  少女は急に聞こえてきた音声に驚くと、機械にもたれ掛かるのを止めて咄嗟に距離を置くが、それが操作説明だとわかると、直ぐに目を輝かせて機械に向かって話し始める。 「そういうのは良いから、お父さん達が私と同じ年齢だった頃に連れて行ってよ」  音声に割り込むように言った少女の言葉に、機械まるで人間かの様に少しの沈黙の後に真っ二つに開き始める。 「帰りたいときは、この帰還アプリを起動すればいいんだったっけ?」  少女は機械に固定されていたスマートフォンを右手に持つと、人に見せるかのように分かりやすく、機械のそばに手を近づける。  少女の乱雑だが丁寧なその仕草に、電子音声は渋々YESと答える。  そんな機械の声に、少女は声を出して笑う。 「ごめんごめん。でもちゃんと信頼してるから、ね?」  少女はなだめるような声で語り掛けると、機械を優しい手つきで撫でながら機械の中へと足を踏み入れていく。  そんな少女の態度に機械は呆れたようにため息をつくと、丁寧にタイムスリップの準備を始める。  少女はその声に耳を傾けながら、右手で持ったスマートフォンをぎゅっと握りしめてそっと目を閉じた。 「お父さん、待っててね」  その小さな声に反応するように、タイムスリップが始まった。
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