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「気にするなって、元から友達なんていないしな」
僕は精一杯の面白くも無い冗談を言うと、反応を伺うように雫の方に目線だけ動かす。
すると、彼女は潤んだ目を大きく開けて、驚いた顔をしてからすぐに笑顔を浮かべてくれる。
「もう、なにそれ」
そう言って雫が声を出しながら笑う姿を見て、僕は安心を覚えてまた彼女から目線を逸らす。
「ありがとうね。翔君」
「おう」
お礼の言葉を言われると無性に恥ずかしくなってしまい、僕は雫の頭から手をどけようとすると、すぐに何か温かいものが僕の手を包み込む。
慣れない感覚にとっさに手元に目をやると、雫が両手で僕の右手をしっかりと握りしめていた。
「それじゃ、私と友達になろうよ」
「……もう設定崩壊してんじゃねえか」
「いいんだよ。あと設定って言うな」
皮肉めいた冗談を言いながらも、僕が手を振りほどかないことに雫は笑顔のままで、まるで僕の事を分かっていると言わんばかりに、僕が反応を示すのをじっと待つ。
そのことになんだか、こそばゆさと嬉しさが混じり合って、僕は早まる気持ちを抑える事もせずに言葉を返す。
「まあ、その……よろしく」
色鮮やかなに移り変わる彼女の表情のせいか、さっきまで雫に持っていた恐怖心など、僕はもう忘れてしまっていた。
「うん!」
雫は元気のいい返事と共に、もう一度しっかりと僕の手をギュッと握りしめる。
手に残った違和感に不思議と嫌な気持ちになれない僕は、自称娘兼、高校生活初めての友人が出来たのだった。
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