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「それで、雫はどうしてタイムスリップしてきたんだ?」
昼休みに入ると、いつも通り一人で教室の隅にある自分の席でパンを食べる習慣が、今日からはそれが二人になっていた。
たったそれだけの事に少しの気恥ずかしさを覚えながら会話の種にと、僕は雫に質問を投げかけた。
すると、僕と机を挟むようにしてパンを食べていた雫は、気まずそうに僕から目線を外して窓の外を見ながらぼそぼそと話し始める。
「えっとその……そう! 遊びに来ただけだよ! 昔のお父さんたちってどんな人だったのかなって」
「ほう」
急に大きく身振り手振りを使って話す雫の様子に、これは嘘をついているな、と僕が半ば確信していると、僕達の間に入りこむようにして机の上に影が落ちてくる。
その影を目で追っていくと、そこには島田さんが今までに見たことも無い引きつった笑みを浮かべながら、僕の顔をじっと見つめていた。
「二人共ずいぶん仲良いんだね。お知り合いだったりするの?」
島田さんから出て来た言葉は、何の変哲も無い普通の言葉なのだが、それとは裏腹にその声には温度が無くそれどころかどこか寒気さえ感じさせてくる。
「げっ……」
雫はそんな島田さんを見て、何かまずいことになったと言わんばかりに嫌そうな声を漏らす。
「どうかしたの? 柊さん」
「なんでもないよ。ホントなんでもないから」
島田さんは雫の小さな声も聴き逃すこと無く、雫の方を見て問いただすが、雫は手を横に大きく振ってごまかしながら僕に目線を送ってくる。
雫が助けを求めていることを感じ取ると、僕は咄嗟にその目線から目を逸らす。
するとその先には島田さんが居て、僕達のアイコンタクトに気が付いていたのか、島田さんの視線は僕の顔を刺すように一点に注がれていた。
その視線から逃げるべく今度は咄嗟に下を向いたが、凍り付いた空気は一向に改善される気配もなく、僕は覚悟を決めて言葉を放つ。
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