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7
結局そのまま午後の授業が始まってしまい、島田さんは一時間のただ無言で机に突っ伏し続けていた。
かと思えば、次の時間には清々しそうな顔をして、いつも通り綺麗に背筋を伸ばして真面目に授業を受けていた。
しいて変わった事を挙げるとするなら、僕が居る左側を全く見なかったことぐらいだろう。
雫はと言うと、授業が始まるとスイッチを切り替えた様に真面目に授業を受け始め、休み時間のはっちゃけた子供の印象を忘れさせるほどに、その姿は優等生そのものだった。
前の席も横の席もそんな様子で、日課にしていた読書などしていられる余裕もなく、仕方がなく朝と比べて雲が出てきたせいか、少し色の落ちた桜を見つめて時間をつぶしていた。
そんな風に授業を受けていると、やっと放課後を告げるチャイムが聞こえてくる。
僕は早く帰ってしまおうと逃げるように急いで席を立つが、そんな僕を呼ぶ声が聞こえて、不思議とその足は止まってしまう。
「柊君。この後一緒に帰らない?」
「翔君。早く帰ろうよ」
横からも前からもかけられた声に、僕は茫然として立ち止まってしまう。
その間にも、島田さんと雫は見つめ合いながら、僕のことなど気にも止めないで言葉を交わし始めてしまう。
「柊さん。転校初日なんだし、学校案内とかしてもらった方が良いんじゃないのかな?」
「それなら、翔君にしてもらいたいな~」
島田さんの笑顔と言う圧に、雫は臆することなく唇の下に指を当てて、意地悪そうに舌を出して挑発する。
「……っ! 翔君、翔君って……! 柊君はこの後私と予定があったんだから!」
そんな雫の態度に島田さんは半泣きになりながら、怒ったように顔を真っ赤にして僕の方を睨みつけながらにじり寄ってくる。
「そうなの? 翔君」
「そうだよね! 柊君」
絵面的には美少女二人に迫られているようにも見えるが、僕の目に写る光景は、切羽詰まった表情で必死に僕の顔を見つめて『分かっているよな』と言わんばかりに視線で訴えてくる二人の姿だった。
「え、えっとみんなで帰りませんか」
どうやら僕は、かっこいい主人公には成れそうも無いらしく、二人に気おされて出した答えは最低主人公そのものだった。
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