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1日目後半
9
しばらくそうやって歩いていると、島田さんは僕が落ち着いてきたことを察したのか、意を決したように僕の顔をしっかり見て口を開く。
「そ、それで!……柊君達ってどういう関係なの?」
「雫と僕?」
「うぐっ……うん」
僕が質問を返すと、島田さんは何故か自分の胸を押さえながら苦しそうな声を出す。
「その、僕自身もよく分かってないし、確かに不思議なことはよく言うけど、なんだか悪い奴じゃないって、そんな気がするんだ」
「そ、そっか。その……恋人とかじゃないの?」
「ゴホッ……それは無いよ。僕はもう好きな人居るから」
島田さんから告げられた言葉に、僕は驚いてむせこんでしまう。
そりゃ確かに雫はルックスも良いし、ああやって積極的に距離をつめてきてくれるのだから、可愛く思わないと言えば嘘になってしまう。
「な、なんだぁ。良く……ないよ?!好きな人居るの?」
確かめるようにわざとらしく零した僕の言葉に、島田さんは大きく反応を示してくる。その過度な反応に、僕は心の中でひっそりと涙を流す。
「相手の方は、眼中にも無いようだけどね」
僕が皮肉を交えていった言葉を聞くと、島田さんは胸をなで下ろして、いたずらっぽく舌を出して僕に謝罪する。
「ごめんね。ちょっと安心しちゃった」
島田さんのその仕草に、僕の心はどうしようも無く揺さぶられてしまい、咄嗟に話を変えようと質問をする。
「それで、今日はどうして一緒に帰ろうだなんて?」
「ううん。転校生の女の子と初対面で仲良くなってたから、柊君も隅に置けないなって思っただけだよ」
そう言った島田さんは、頬を大きく膨らましてそっぽを向いてしまう。
「なっ! そんな言い方やめてよ」
僕がそう反応をすると島田さんは「あはは」と笑い、機嫌がよくなったのか僕の先を少しだけ速足で歩いて行ってしまう。
僕はそんな彼女の無邪気な笑顔に、また心を持っていかれてしまう。
(だってそんな態度されたら、誰だって勘違いしてしまうじゃないか)
そんな愚痴は風の音に消えてしまえと、僕は心の奥底の気持ちを置き去りにして、四月の風に背中を押されるまま島田さんの側へと走っていった。
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