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島田さんを駅まで送り届けると、空はオレンジ色に明るく染まっていたが、その温かな色合いとは違い僕は肌寒さを感じて、まっすぐ家に向かって先ほど通った道を戻っていた。
今日は漫画の主人公にでもなったかのように、色鮮やかで慌ただしい一日だった。
そのせいか、家の近くの曲がり角を見つけると、急に疲労を感じそれと一緒にどこか名残惜しさを感じてしまう。
そんな自分の考えに、自然と頬が緩んでしまいその角を曲がる。
するとそこには、先程まで一緒に居た女の子が僕の家の前でしゃがみ込んでスマホの画面とにらめっこをしていた。
僕がその光景に唖然として足を止めていると、その女の子の鼻をすする音が聞こえてきて、覚悟を決めて女の子に声をかける。
「雫さん。いったい何をしてるんですか?」
僕の声を聴くと、それに反応するように雫はバッと勢いよく僕の顔を見上げて、しゃがみ込んだまま半泣きの彼女は、顔をくしゃくしゃにして震えた声で返事をくれる。
「翔君……寒いよぉ」
先程心の中で美少女と褒めた女の子は、ズズっと鼻水をすすりながら、僕の方に両手を差し出して助けを懇願していた。
「ああ、もう、とりあえず入れ」
僕はそう言うと、雫の横を通り抜けて家のカギを開ける。
「うん」
後から聞こえた雫の声は、どこか情けなく聞こえた。
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