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「お邪魔します……」
そう告げた雫の言葉は、さっきまでの寒そうに震えた声とは違い、申し訳なさそうに今にも消えそうな声で告げられる。
僕はとりあえず雫をリビングに通すと、暖房をつけてからソファに腰を下ろす。
その様子を見て、雫は申し訳なさそうにしながらも、僕の横にちょこんと座る。
「それで、どうして僕の家の前で待ってたんだ?」
僕の質問に雫は依然として、申し訳なさそうに小さな声でぼそぼそと話し始める。
「その、タイムスリップして、お父さん達に会う!って事までは予定通りだったんだけど、それ以外何も考えてなくって、その……家もお金もありません」
自称娘は、出会ってから初めての敬語を使って、丁寧におぼろげに震えた声で此処に至る経緯を語る。
彼女の話す理由に、僕は内心やはり詐欺師とかなのかと疑心暗鬼になりつつも、それと同時に、僕も同じ過ちをしてしまいそうな気もして少し信用してしまいそうにもなる。
「そんな、おまっ!」
僕が雫の方に体を向けて少し強めに言った声に、雫は怯えた様に体をピクリと動かす。
そんな雫を見て、僕は自分の言葉を途中で遮り、一呼吸置いてからソファにしっかりと座り直すと先程までとは違う言葉を口にする。
「いや、そうか。わが娘ながら、それは……馬鹿だな」
だってそうだろ、女の子が目の前で泣きそうになっていたら、そんなの騙されるしかないじゃないか。
「信じてくれるの?」
雫本人も、今まで僕が、彼女が娘だと言うのを信じていなかったことを感じていたのか、それとも、自分の行動が怪しいことを自覚していたかは分からないが、戸惑いながら僕の顔色を窺うように質問してくる。
「ああ、信じるよ。だから自分の娘を外に追い出すなんてこと出来ないよな」
僕は自分の決意をしっかりと固める為、わざわざ声に出して言ったその言葉に、雫も僕の横で溢れるのを精一杯堪えていた潤んだ瞳をゴシゴシと擦って、涙を吹き飛ばすように笑顔で返してくれた。
「うん。ありがと、翔君」
こうして僕には、同い年の娘が出来たのだった。
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