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13
僕達は暗闇の中を街灯を頼りにしてまっすぐに家に帰ると、そのまま急いで食事の支度をはじめていた。
「翔君、お皿どこ?」
「ああ、すまん。いま出す」
そんな僕達の会話は、同棲したてのカップルの様に聞こえなくもないが、雫の何とも思っていなそうな態度に、僕はどこか安心感すら覚えてしまい、初めは緊張をしていた僕も今は昔の様で、かなりフラットな状態になれていた。
「いや、それにしても、制服で台所に立ってるのってなんだか変な感じするな」
お玉でカレーをよそう雫の姿は、制服の上からエプロンと言う、すこし背徳的な姿になっていた。
「仕方ないよ。お母さんの制服着ていかないとぐらいしか考えてなかったし」
雫は、自分が来ている制服の首元を指先でつまみながら言う。
雫の言ったその言葉に、僕があえて自分ではあまり考えないようにしていた事を、彼女から触れてきたことに驚きを隠せず、ついつい目が泳いでしまう。
雫も僕の異変に気が付いたようで、じっと僕の顔を見つめながら一歩近づいてくる。
「いや、待て、僕はまだ何も言ってないぞ」
「私もまだ、何の事かも聞いてないんだけどな~」
にじり寄るようにして近づいてくる雫に、僕は目を合わせられないで無言を貫く。
「お母さんは誰なのか。とか考えてたでしょ」
目線はそのままで僕の考えていたことを的確に当てた雫の言葉に、無言を諦めて正直に言い訳を始める。
「そりゃ、気になってはいたけど、雫が触れてこなかったから、やっぱりまずいのかなって思いつつ……気にはなっていたよね」
僕が開き直ってそう言うと、雫はほんの少しの間だけ僕の顔を睨んでいたが、笑うのを我慢していたのか、直ぐにケラケラとお腹を押さえて笑い始める。
その仕草は可憐なようで、それでいて同時にどこかで親しみやすさも感じて、僕は思わず目を奪われてしまう。そのことを誤魔化すようにして僕は雫に声をかける。
「……そんなに笑わなくってもいいだろ」
「ごめんごめん。いや、そうやって開き直るのは、やっぱり翔君なんだなって」
ひとしきり笑い終えた雫は「はいっ!」と言って、僕にカレーの盛り付けられた皿を差し出す。
雫の指摘に、僕はなんだか恥ずかしい気持ちになりながらカレーを受け取って、やるせない感情を抱えたまま机に運んでいく。
「この癖なおさないとな」
机に持っていく最中、僕がボソッと呟いた独り言が雫にも聞こえていたのか、僕の背中には雫の涼やかな笑い声が、突き刺さるように聞こえてきた。
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