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「んっ……なんだこれ!美味しい」
僕はカレーを一口頬張ると、自然とその言葉を口にしてしまっていた。
僕の反応を見て、対面に座る雫はニヤニヤと嬉しそうに僕の顔を見つめてくる。そんな事に気を配る余裕も無いまま、僕は一口もう一口とカレーを口の中に運んでいく。
「ホントにおいしいな」
「そっかそっか、良かった良かったぁ」
僕の言葉を聞いて、雫も満足したのか嬉しそうにリズムに乗って返事をすると、彼女も自分のカレーを食べ始める。
「それで?これからどうするんだ?」
「どうって?」
僕の質問に、雫は食事を進めながら不思議そうに首を傾げると、気の抜けた声で返事をする。
「何か理由があってきたんだろ?」
「ああ、それね。まあ、大半は叶ったって言ってもいいんだけど……」
雫は言葉を途中で止めて、考え事をしているのか真剣な顔で、僕の顔をマジマジと見つめて話を続ける。
「もうちょっとだけ、この時間に居てもいいかな?」
「それは別にいいんだけどな。こうやっておいしいご飯も食べさせてもらってるわけだし」
両手を自分の前で合わせて頼み事をするように言う雫に、僕はカレーをスプーンですくいながら何でもないように了承をする。
「えへへ。そっか、ありがと」
雫は嬉しそうな声を出して食事に戻るが、この時間に来た理由を悟られたくないのか似合わない愛想笑いを浮かべてきて、僕にはそれが何故だか無性に腹立たしく感じてしまった。
僕は自分のその感情に蓋をするように、カレーを飲み込んで別の会話を始める。
「じゃあさ、明日買い物に行こうと思ってるんだけど、何も予定がないなら付き合ってくれるか?」
僕の言葉を聞いた雫は目をキラキラと輝かせながら、前のめりになって嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。
「うん。行く!」
その雫の顔はやはり先ほどの物とは違い、僕の心が大きく落ち着いていくのが自分でもわかる。
「なら、お昼から行こうか。それまでには起きろよ」
「はーい」
雫は子供の様な返事をすると、椅子に座り直してパクパクと食事に戻っていく。
その光景がなんだか愛らしく見えてしまっていると、雫が思い出したかのように僕の顔を見て質問を飛ばしてくる。
「あ、それより、私今日どこで寝たらいいかな?」
雫のその何でもないように言った一言は、僕が考えることを放棄していた事の核心をしっかりと突いてくる。
「そうだな、家に客室なんてないし……」
僕は部屋の中を見回すようにして考える。
「父さんの部屋は流石にダメだろうし、僕がリビングで寝るとか、かな」
そんな独り言をつぶやきながら考えていると、雫から一つの案が告げられる。
「翔君の部屋で一緒に寝ちゃダメかな?」
「へ?」
雫から出た驚きの発言に、僕の思考は停止を告げた。
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