1日目前半

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3  いつも通りとは決して言えないホームルームが終わり、先生が教室を出て行った頃には、先程まであった緊張感は無くなったようで、僕の席の前では転校生が来た時の定番イベントといっても差し支えない光景が繰り広げられていた。  柊さんの席の周りには、ホームルームの終わりを告げる先生の声を待っていたかのように直ぐさま人が集まってきて、各々が多種多様な質問を投げかける。  その人だかりの真ん中から、たまに柊さんの困ったような声が漏れ出てくる。  彼女の現状をどうにかすることも出来ない僕は、居心地のよくない教室から逃げ出すように、時間をつぶすため自動販売機にでも行こうと席を立つ。 「翔君。どこに行くの?」  僕が立ち上がると、人ごみの真ん中に埋もれていて僕の姿なんて見えるはずのない転校生が僕の名前を呼ぶ。  その声に、彼女の周りの人達だけではなく僕も戸惑いを隠せず、足を止めて姿の見えない柊さんの方を見る。 「柊さん。なんで僕の名前を?」  僕は自分を含め、皆が思っているだろう疑問をそのまま柊さんに投げかける。 「まぁまぁ。私も一緒に行くよ、翔君」  柊さんはわざとらしくもう一度僕の下の名前を呼んで、人の群れの中からスッと姿を現す。  現れた彼女の顔色は少し青ざめた様になっていて、それをごまかすように笑顔を浮かべると僕の腕を引っ張って教室を出て行こうとする。 「ちょっ」  僕の声に聴く耳も持たない柊さんは、僕の手を取ると連れ去るような形で、足早に教室を後にする。  教室を出ると僕達の背中を追いかけるように教室の中からは、大勢の悲鳴と、どういう関係なんだという声が聞こえてくる。  そんなの僕が一番知りたいんだと心の中でそう叫びながら、僕は手を引かれるまま駆け足で教室から離れていった。
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