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柊さんに手を引かれるまま中庭まで来ると、彼女は見るからに疲れた様子でベンチに腰を掛けて、肩を揺らしながら息を整えていく。
「柊さん、その大丈夫?」
僕は柊さんの隣に座り、彼女の顔色を窺いながら言葉をかける。
「大…丈夫…じゃないかも」
柊さんはそう言うと、背もたれにもたれ掛かるようにして姿勢を崩す。
「その、柊さんは僕のこと知ってるの?」
柊さんは僕の方を見る余裕も無いようで、手で少し待ってとジェスチャーをすると大きく深く呼吸を始める。
しばらく待っているとマシになったのか、姿勢を整えると僕の方に体を向けて丁寧に話し始める。
「ふぅお待たせ。もう大丈夫だよ」
「いや別にいいんだけど……僕達どこかで会ってましたっけ?」
僕のその腑抜けた問いに、柊さんは真剣な面持ちになって、もう一度深呼吸をしてからしっかりと僕の目を見て話し始める。
「えーっと、その……信じてくれないとは思うんだけどね」
「う、うん」
不安な切り出しから始まった会話だったが、彼女の深刻そうな顔に僕まで思わず息をのむ。
「私はね。未来からタイムスリップしてきた、翔君の娘なの」
「うん、なるほど。……もう一回言ってくれる?」
柊さんの真剣な態度に、僕は一度頷くが考えても理解できないその言葉に、自分の耳を疑ってしまう。
「だから、未来から来た。君の娘なんだってば!」
どうやら僕の聞き間違いではなかった様で、柊さんはもう一度、今度は怒ったような身振り手振りを付きで同じことを伝えてくるが、僕は未だに全く意味が分からないでいる。
「柊さん」
「同じ苗字なんだから名前で呼んで」
何故か僕の名字まで知っていた柊さんは、僕が話そうとしたのを即座に遮って、至極どうでもいい事を言ってくる。
「柊さん」
僕は柊さんの提案を無視して続けようとすると、柊さんは子供の様に頬を膨らませながら耳を塞いで、聞く耳を持たないとでも言いたげな表情で僕の顔を見つめてくる。
「その……雫さん?」
「うん! 雫で良いよ」
僕が諦めて彼女の名前を呼ぶと、彼女は満面の笑みでそれに答えて、満足そうな様子で僕の横に座り直しながら呼び捨てを要求してくる。
コロコロと表情を変える美少女は、さっきよりも少しだけ近くに座りなおしてくる。
そんな些細なことにドキっと揺さぶられてしまう僕の心をごまかすために、大きく咳払いをしてから先ほどの内容に話を戻す。
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