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私と雫は、人通りの少ない旧校舎の階段に座ってお昼を食べようとしていた。
私はお弁当を持って来たが、雫はパンを1つだけ持ってきていて、横に座る形で腰を落ち着けるが、彼女はパンの袋を開けることなく膝の上に置いてしまう。
「それでどうしたのよ。話なら聞くわよ」
「うぅ……言いづらいです」
そう言う雫の姿は弱弱しく、今にも抱きしめてあげたくなる。
そんな自分を制御する様に箸で卵焼きを掴むと、雫の顔に近づける。
「パンだけじゃ体に良くないでしょ。あーん」
向けられた箸を見て戸惑っていた雫に私がそう言うと、納得してくれたのか、雫は口を開けて卵焼きを食べてくれる。
「どうせ、私と翔君の関係変わったし邪魔じゃないかな。とか考えてたんでしょ」
「んっ!?」
私の予想は的中した様で、動揺したのか雫はせき込み始めてしまう。
「もう。ちゃんと落ち着いて食べないから」
私が急いで雫にお茶を渡すと、雫はそれを受け取って、ゴクゴクと喉に押し込むようにしてお茶を飲む。
「海ちゃんが急にそんな事言うからだよぉ」
「えー、私のせい?」
私の言葉に雫は何度もうなずくと、またすぐ影を落とした様に下を向いてしまう。
「雫。あの時起きてたでしょ?」
「……あの時って何のこと?」
返って来るのが分かっていた筈なのに、その答えを直接耳にすると少しイラ立ってしまう。
「私が告白してた時、途中から起きてたでしょ?」
「……だって。あんなの邪魔できないじゃん」
「……まあ、確かにね。翔君はあれでプライドの塊だしね」
雫から返って来た真っ当な意見に、私はうなずきながら箸を動かして言葉を繋げる。
「でもね、雫。あなたは私の友達で翔君とも友達なのよ。邪魔なんて思う訳無いじゃない」
「……でも」
私は、雫が何かを言おうとしているのを察して、雫の口の中に今度はミニトマトを放り込む。
「でもじゃないの。私も翔君もそんな人間じゃないわよ。それはちゃんと分かってくれてるでしょ?」
口の中に入ったトマトが邪魔な様で、雫は声を出さずに力いっぱい首を縦に振る。
「ん。ならもう気にしないの」
私はそう言うと、膝の上に乗せていたお弁当を雫が座る位置とは反対側に置いて、雫の方に体を向けると両腕を広げて見せる。
すると雫は私の意図を汲み取ってくれた様で、私の胸の中に飛び込んでくる。
「大丈夫よ……好きなだけ此処に居なさい」
私が子供を慰めるかの様に雫の頭を撫でると、雫はそれを嫌がる様に首を思いっきり横に振って私の顔を見上げる。
「海ちゃん……大好き!」
吹っ切れた様に笑う雫の笑顔を見て、私まで自然と笑顔になってしまい、今度は友人を慰める様にちゃんとギュッと抱きしめる。
「翔君も、雫みたいにちゃんと言ってくれてもいいのに」
私が呆れた様に呟いた言葉に、雫は楽しそうに笑い声を零した。
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