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学校を出ると雫は再び静かになってしまい、僕と雫は言葉を交わす事も出来ずに、気まずい空気のまま家へと足を進めていた。
僕はそんな空気を変えるべく、唐突に雫に会話を振る。
「雫の両親ってどんな人なんだ?」
僕はそれが未来の自分なのだと自覚ながら、無神経な質問なのかもしれないと理解しながら、興味本位でそう質問をする。
「うーん。それってどういうこと?」
だが雫は僕の質問に嫌そうな態度をする事も無く、悩まし気な声を出して僕の顔を見上げる。
「そのままの意味だよ。印象と言うか」
僕の雫に合わせる様にいつも通りを装ってそう言うが、彼女は僕の曖昧な説明に納得がいっていない様で、僕の顔をジッと見つめてくるが、直ぐに僕の顔から眼を逸らして話を始めてくれる。
「すごい人だよ」
僕から逸らした瞳でどこか遠くを見つめて話す雫から出た言葉は、尊敬の言葉だった。
「お母さんは、忙しい筈なのにいつもご飯を作ってくれたり、私の事もよく見てくれてるんだ」
「それは、かっこいいな」
僕から出た同意の言葉に雫は嬉しそうな顔をして頷くが、自分の表情に気が付いたのか、彼女は速足で僕の前を歩き始めてその表情を隠してしまう。
「お父さんは……」
雫はそれでも話を続けようとしてくれるが、そこまで言うと、早くなった足を止めて大きく息を吸ってから振り返って、僕の顔をしっかりと見つめて言葉を続ける。
「お父さんも、すごくかっこいい人だよ」
抽象的なその言葉はただ真っ直ぐで、尊敬しているという彼女の気持ちが直に伝わってくる。
だからこそ、その言葉に、僕の心の奥でずっと溜まっていた雫への劣等感が込み上げてきて、彼女が尊敬をするような人間に、僕が成るというビジョンが上手く想像できない自分も居た。
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