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考えたところで答えなんて出るはずも無くて、ゆっくりと動き続けていた足はいつの間にか僕を家の前まで運んでしまっていた。
ドアの前に立った僕は、重たい右腕でドアノブを捻る。
家の中に入り最初に目に入ってきたのは、乱雑に脱ぎ捨てられた雫の靴だった。
どうやら雫はちゃんと家に帰ってきている様で、それを確認しただけで、僕の肩に籠っていた力が抜けていくのが分かる。
自分が安心しているのを感じると、僕は自分の靴と雫の靴を丁寧にそろえてから、電気の付いていないリビングのドアを開ける。
しかし、そこには当然の如く雫の姿は無く、僕はカバンをソファの上に放り投げると、その足のまま雫が居るであろう僕の部屋に向かっていく。
「ただいま」
ドアを開けることなく部屋の中に話しかけると、雫からの返事は無かったが代わりに微かな物音が聞こえて来て、そこに雫が居るのを感じる。
雫が居ることを確認すると、僕は大きく息を吸い込んでからもう一度ドアに向かって話始める。
「雫。僕は正直お前に劣等感みたいな物を感じてた。きっとこの感情は家族に対する物でもなければ、友達に向ける物でも無くて、ただ僕が子供なせいなんだと思う」
僕が話し始めると、ドア越しに足音が少しずつこちらに近づいて来る。
「悔しかったんだよ、喜べなかったんだ!」
一度本音を零してしまうと歯止めが効かなくなってしまい、どんどんと声が激しく、そして震えていく。それでも僕は空っぽな頭で言葉を紡ぎ続ける。
「だからこそちゃんとお前に向き合いたいんだ、子供で弱虫な今の僕として」
賢くない僕の頭で考え、つたない言葉で伝えた精一杯の思いは、雫に伝わったのか、部屋の中から座り込んだ様な音と共にドアが小さく揺れる。
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