4日目後半

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「私ね。逃げてきたんだ」  ドア越しに聞こえてきた雫の声に、熱くなっていた僕の体からスッと熱が消えていく。 「私は学校にも友達なんて居なくて、どんなに努力しても親の七光りだなんて言われて、それが嫌になって逃げてきたんだ」 「その……未来の俺はそれでも何もしなかったのか」  僕は声の位置を合わせる様にしゃがみ込むと、雫の話に悔しさを覚えて声を返す。 「お父さんは有名な人になっちゃってね。私は悩みなんて言えなかったんだ」 (そんなの無いじゃないか、子供を最優先するのが親だろ)  雫の言葉を聞いて真っ先に頭に浮かんだ言葉は、つい最近彼女がボソッと零した言葉だった。  だからこそ“そんな事にも気が付けない自分”というのに納得が行く半面、その分腹立たしだが滲み出してくる。  そんな僕を察したのか、こんな時だというのに雫はフォローを入れようとしてくれる。 「だけど、それでも私にとっては大好きなお父さんで、尊敬してるんだよ」  雫が必死になって言う声に、彼女の優しさや気遣いが伝わって来て僕の方が泣きそうになってしまう。  だからこそ、僕は涙を流さない様に首を横に振って震えた声を返す。 「それでもだめだよ。自分が一番よく分かっているはずなのに、同じ気持ちを子供にさせるなんて」  僕は自分に別れを告げる様に、子供じゃなくなる為のわがままを呟くと、立ち上がってドアから遠ざかる様にしてリビングに戻っていった。
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