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「……それで雫、さっきの話なんだけど」
「信じてくれた?」
雫は教室で見せたミステリアスで凛とした転校生の面影なんて無く、キラキラした瞳で僕の目を見てきて、その様子は少し幼い子供の様な印象を思わせてくる。
「中二病ってやつは早めに直した方が良いぞ、後々後悔することになるから……」
僕が深刻な声色でそう告げると、雫の表情はまたコロッと変わって、悲しそうな顔をして会って数分の僕にでも分かるほど肩を落とす。
そんな彼女の様子に、言った本人の僕まで申し訳ない気持ちになってしまう。
「そっかごめんね」
雫は無理やり作ったのか引きつった笑顔を浮かべてそう言うと、唐突にポケットからスマホを取り出して画面をいじり始める。
僕はなんだかやるせない気持ちになり、コーヒーでも飲もうと直ぐ側の自動販売機で『あたたかい』と書かれたコーヒーを二本買って雫の下へと戻る。
戻っていく最中。学校の校舎に設置されている時計を確認すると、とっくに一時間目が始まっている時間になっていて、僕は今、人生初のサボりをしているんだと、そんな事がどこか楽しく思えて僕は雫の居る方へとまた歩き始める。
戻ってきた僕に気が付いたのか雫は僕の方を見ると、一瞬だけ驚いたような顔をした後に、直ぐに優しそうな笑顔を浮かべる。
「こういうところなんだろうな」
「ん? なんか言ったか」
「ううん。おかえり、翔君」
僕は不覚にも雫のその嬉しそうな表情に、またドキッとしてしまい、無言のまま片手に持っていたコーヒーを手渡す。
「ありがと。あったかいね」
雫は両手でコーヒーを受け取ると、頬に当てて笑みを零す。
そんな仕草に目を奪われそうになりながらも、何も気にしていないように取り繕って雫の横に腰を下ろす。
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